隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

AI監獄ウイグル

ジェフリー・ケインのAI監獄ウイグル (原題 The Perfect Police State)を読んだ。数年前から新疆ウイグル自治区で行われていると言われている著しい人権侵害について書かれている本だ。色々な所から入ってくる情報を見ていて、なんとなくわかっているつもりでいたが、この本を読んで、一体ウィグルで何が起きているのかよくわかった。そこは正にあのジョージ・オーウェルの「1984」の世界だ。

町中におびただしい数の監視カメラがあり、そのカメラはスタンドアローンではなくネットに接続されて、ほぼリアルタイムで画像処理されている。しかも、当局が必要と判断すれば、一般家庭のリビングにまでカメラが設置できるのだ。これこそまさに「1984」の世界だ。そして、移動の度にIDを確認され、スキャンされる。DNA、血液、顔写真などの身体情報を取得され、拒むと何が起きるかわからない。いつもと違う行動をすると、すぐ密告される。そんな環境にいきなり放り込まれたら、気が狂いうのではないかと恐ろしくなる。しかも、ただ監視されているだけではなく、当局は住民をランク付けしており、危険人物とみなされると、再教育センターと称した収容施設に送られるのだ。そこでは国家と党に対する忠誠が叩き込まれる。

なぜ、ウィグルなのかというのもよくわかっていなかったのだが、911以降のイスラム教徒へに対する偏見であり、ウィグルが一帯一路の東の接点になっていることが理由であろう。一帯一路の成功のためには、テロが起きてもらっては困るという事だ。実際2000年代になって、ウィグルでテロ事件が複数起きたという事実はあるようだ。その背景には漢民族によるウィグル民族に対する差別や不平等という事があるようだ。本書には中国のハイテク企業がいかにして中国政府・共産党と結びついて、ウィグルの監視システムを作っていったかという事も書かれている。

現在問題が起っているのは新疆ウイグル自治区だが、香港への締め付けも厳しくなっており、早晩似たような監視システムが設置されても不思議ではないだろうし、他の少数民族も同じような状況にならない保証はない。本当に恐ろしいことだ。

本書を読んでいて、随所に「認証」という訳語が用いられているが、それらは「認識」と訳すべきだと思う。「認証」と「認識」似ているが、異なる概念だ。「顔認証」というのと「顔認識」では意味合いが違うだろうし、中国が行っているのは「顔認識」を使っての監視だろう。