隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

不確実性を飼いならす——予測不能な世界を読み解く科学

イアン・スチュアートの不確実性を飼いならす——予測不能な世界を読み解く科学 (原題 DO DICE PLAY GOD? THE MATHEMATICS OF UNCERTAINTY) を読んだ。読む前は、実際にどのようにデータを処理するかというようなことが書かれているのかと思っていたのだが、この本はどちらかというと読み物で、何かの方法を伝えるというようなものではなかった。

不確実性と言っても色々なものがあり、単にどうなるのかわからないものから、予測不能な事象まで、それぞれ違った性質がある。それは単に我々が無知であるという事に起因するものから、不確定性原理のように、物事の性質自体が正確に記述できないというものまでいろいろある。我々人類は当初単に無知だったのが、色々のことを理解していくうちに、正確に観測できない・記述できないというところまで行きついてしまったのは、なんだか皮肉なような感じもしている。

本書では人類が不確実性をどのようにとらえていたかを6つの世代に分けている。第一の世代は不確実性を神のみわざと見ないしていた。しかし、人類が科学という知恵を手にした第二世代では、科学の力で不確実性を明らかにできると考えていた。第三の世代は科学の力で物事の不確実さを定量的に測ることができるようになり、そこから確率が生まれた。その後統計が発達した。第四の世代は科学が発達し、基礎物理学を生み出し、古典物理学に結びついた。やがて物理は量子の世界にきつく。第五の世代は数学の世界からカオス理論が生まれた。第六世代ではコンピュータを使い、計算することで未来を予測することができるようになった。そして、予測の信頼性を考慮できるようになり、不確実性に備えることができるようになった。

本書の中で、カオス理論の説明で天気予報のことについて触れている。天気予報は正にカオス理論的なふるまいをする。わずかな初期値の違いにより、時間が進むと全く違う状態・計算結果になる。カオス理論の章でローレンツが「ハリケーンの予測がどれぐらい先までできるか」について考察した内容が記されている。ハリケーンの空間規模は約1000キロメートルで、その内側には100キロ程度の中規模構造が存在する。更にその内側には直径1キロの雲がある。雲における乱流渦は直径数メートルである。ローレンツはハリケーンを予測するのに最も重要なのはどれかを考えた。こうした複数の規模を持つ気象システムには3つの特徴があることに気づいた。大規模の構造では誤差(計算誤差か?)は約3日で倍になる。第2の特徴は微細スケールの構造(個々の雲の位置など)では、誤差は遥かに短い時間で大きくなり、一時間程度で倍になる。第三の特徴は、微細構造の誤差はより大きなスケールの構造に伝播するというものだ。この3つを合わせると2週間先の予報を出すなど不可能と書いてあるが、三日先の予報を出すのも至難のことのように思われる。天気予報の精度は上がっているのだろうが、最近直前になって、その予報がころころ変わるさまをよく目にするような気がしている。