隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

僕が死んだあの森

ピエール・ルメートルの僕が死んだあの森 (原題 TROIS JOURS ET UNE VIE)を読んだ。あらすじを読むと「12歳の少年が隣家の6歳の少年を殺した」という心理サスペンスの様だ。そして、この「僕が死んだあの森」というタイトルだと、「僕」は殺された6歳の少年のような印象を受けた。だが、そうすると物語は殺された6歳の少年の視点で書かれているのだろうかという疑問が読む前は湧いていた。それだとホラー小説になってしまいそうだ。しかし、原題を日本語に訳すると「3日間と一生」というような意味になって、日本語のタイトルとは全然意味が違う。何とも不思議な感じがしたのだが、結論から言うとこの日本語のタイトルはちょっとわかりにくいと思う。この日本語のタイトルの「死んだ」というのは「人生が終わった」というような意味なのだろう。それは最後まで読まないとよくわからない。

この物語は、全く図らずも隣家の少年を殺してしまった12歳の少年がさいなまれる殺人犯として逮捕される恐怖と、逮捕によって何もかも破壊される恐怖が最初の「一九九九年」では描かれる。そして、その後の出来事の「二〇一一年」、「ニ〇一五年」が続いている。「二〇一一年」と「ニ〇一五年」では何が起きるかを書いてしまうとネタバレになるので、書かない。だが、「ニ〇一五年」は今まで見えなかった人間関係の裏側が描かれていたり、1999年のあのことはそうつながるのかというのが分ったり、主人公の心のありようと対比すると非常に皮肉的な感じがする。あれだけおびえていた少年が辿り着いた境地が、そこなのかということがわかると、ある種作者の冷笑的な視点を感じざるを得ない。