隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

一八世紀の秘密外交史:ロシア専制の起源

カール・マルクスの一八世紀の秘密外交史:ロシア専制の起源(原題 Secret Diplomatic History of the Eighteenth Century)を読んだ。マルクスといえば資本論を思い浮かべるが、今までどの本も読んだことがなかった。この本も今の一連のロシアの状況に刺激を受けて、新に翻訳されたものを見つけたので読んでみた。本書にはまずウィットフォーゲルによる序が約70ページほどある。それから1~6章の本編があり、その後解説とあとがきが続いている。

まずマルクス大英博物館で見つけたという駐ロシアのイギリス外交官の書簡を複数引用しているのだが、その中に「秘密」とか「極秘」とか書かれているものがある。これらがタイトルの「秘密外交史」の秘密の所以なのだろうか?これらは1730~80年頃に書かれたもので、この内容はロシアに対する過剰な配慮であり、宥和政策に沿ったもので、それによりイギリスがロシアの強大化の手助けになったのだという事をマルクスは発見するのだ。続く2章では1715年の北方同盟(ロシア、デンマークポーランドプロイセンハノーバー)によるスウェーデン帝国の領土分割戦争に関する文書で、スコーネ襲撃がロシアの失策のために実施できなかったことの分析と非難に関するものだ。この冊子の結論は今イギリスがロシアの膨張に対処すべきだという事を明確に述べている。第4章にあるイギリスとスウェーデン防衛条約でもわかるとおり、当時はイギリスとスウェーデンは条約を結んでいて、他国からの攻撃には協働して対処する関係にあったはずなのだが、ハノーバー選帝侯でもあったイギリスはスウェーデンとの戦争に参加している。第4章の条約文には事細かく注をいれてイギリスのロシアに対する思考・行動を非難している。

残りの部分はいかにしてロシアの専制が生まれてきたのかという事の分析なのだが、マルクスはロシアの専制は多分にアジア的なもの、モンゴルによる征服によってもたらされたのではないかとしている。確かに日本と国境を接する3つの国に専制的な政権があり、ロシアはアジアからヨーロッパにまたがった国であり、北朝鮮・中国はアジアの国だ。解説者もこのアジア的な専制という事に注目しているようだが、どうやら文献となる史料がないようで、客観的な考察は加えられないようだ。

マルクスの分析がどこまで正しいかはわからない。ただ、イギリスは地理的に遠い国を用いて、地理的に近い国を牽制することを目的にしたのだろうが、明らかにイギリスの宥和政策やロシアを利するような政策はロシアの強大化につながったと考えられる。これもイギリス外交の残した厄介ごとなのだろう。