隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

小田雅久仁氏の禍を読んだ。この本は短編集なのだが、収録されている作品は何とも言えない不思議な感じの小説だ。ホラーとはちょっと違うし、幻想小説とか怪奇小説の範疇に入る作品群だろう。収録されているのは「書食」、「耳もぐり」、「爽色記」、「柔らかなところへ帰る」、「農場」、「髪禍」、「裸婦と裸夫」の7編。

最初の「書食」からかなり奇妙な作品。たまたまショッピングモールの多目的トイレで本のページを貪り食う女を目撃し、その行動に興味を覚えて自分でも試してみた作家崩れの男が迷い込む物語の迷宮の話。なぜか食べた本のページの世界に没入してしまう。しかもその世界が奇妙なのだ。「耳もぐり」もかなり妙。耳の中に潜れるようになった男の経緯を聞かされる恋人を探している男の話。長い間誰かの耳の中に潜っていると潜っている者と潜られている者の境が無くなっていく。「農場」もかなり不思議なストーリー。食い詰めた若い男が連れていかれたのは兵庫の山奥にある農場で、そこでは「ハナバエ」という作物を育てていた。その農場では鼻を培養槽で育て、畑で成長させ、ヒトのようなものを収穫して、出荷している。なぜそのような事をしているのかは一切明かされない。

これらの作品群は最終的には破滅を予感させたり、破滅したりしているのも一つの特徴。これらの作品は読んでいて、不気味な怖さがあった。