隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

ネガレアリテの悪魔 贋者たちの輪舞曲

大塚已愛氏のネガレアリテの悪魔 贋者たちの輪舞曲を読んだ。

時代は19世紀末、場所はロンドン。ハンズベリー男爵家の娘エディス・シダルは父親に頼まれ贈り物の絵画を探すために画廊を訪れいてた。その画廊で最近発見されたルーベンスの「婚礼の日」という作品を鑑賞していたら、美貌の青年サミュエルに「この絵は贋作だ。1シリングの価値もない」と言われてしまった。これが、この終わりの物語の最初だった。

鬼憑き十兵衛は伝奇小説風だったけれど、こちらはどのように表現したらいいのだろう?表紙裏には「少女x人外の麗しきコンビが謎に挑む冒険活劇」と書かれている。鬼憑き十兵衛とは全然違うテイストになっていて、より最近のエンターテインメント寄りだろう。それに、女性向けのような感じがする。サブタイトルに「贋者たち」と書かれているが、この物語の中にはいくつもの偽物が出てくる。男爵家の娘のエディスも偽物、一見非の打ちどころのないサミュエルも偽物。そして、本作に登場する絵画の贋作は紛れもなく偽物だ。本作は偽物によって結びついている物語ともいえるだろう。偽物のエディスだから贋作の心の声である呪いや羞恥といったものが聞こえるという設定なのか。

この物語は今後も続くのだろうか?本作で明らかになったこともあるが、まだいろいろなことが謎だ。サミェルがどこから来たのか?なぜ日本刀を持っているのか?などなど。

クジラアタマの王様

伊坂幸太郎氏のクジラアタマの王様を読んだ。

お菓子メーカーの宣伝広報局に勤めている岸は出荷された新商品のマシュマロのお菓子に画鋲が混入していたという苦情を発端に人気ダンスグループの小沢ヒジリと都議会議員の池野内征爾と知り合った。それはあたかも偶然が重なって、彼らは出会ったのだが、実は単に偶然とも言えない共通点もあった。8年前の金沢のホテルで起きた火災にこの三人は巻き込まれていたのだ。それだけではなく、池野内は夢の中で岸と小沢にあっていると言うのだ。

この話はどういう風に収束していくのだろうと、先を想像しながら読んでいったが、全然読めなかった。第一章の「マシュマロとハリネズミ」は三人が出会うための序章のようなものだが、そこでは三人の関係性は全然明かされず、それは第二章、第三章で明らかになっていく。そして、第四章においてようやく本当の物語が始まったというように感じた。だが、作者は色々なところに先の展開に関する伏線というかヒントを色々と散りばめている。最後まで読むとそのことがわかってくる仕掛けになっている。

この小説は不思議な構成になっていて、小説の部分のところどころに漫画のページが挿入されている。漫画のページが何を意味しているのかは具体的に説明されず、コマの中にセリフもなくて、多くを語らない。これも後半の方に行くとこれが何を意味しているか分かってくるような仕掛けになっている。あとがきによると、十年ぐらい前からこのような小説と漫画を合わせた作品を考えていたということだ。

小説のタイトルのクジラアタマの王様も何かというのは小説の中では触れられていないが、この小説の鍵になっているハジビロコウの英語名の一つがwhiteheadであるから「クジラアタマ」とつけられたのだろう。だが、そのハシビロコウが王様であったかどうかは特に触れられていなかった。最初タイトルを見たときは、何かファンタジックな作品なのだろうかと思ったのだが、メインのストーリーは不思議な縁で結ばれている三人が協力してある問題を解決ストーリーとなっている。