隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

殺した夫が帰ってきました

桜井美奈氏の殺した夫が帰ってきましたを読んだ。これはまさにタイトル通りの導入から始まる物語だ。鈴倉茉奈は取引先の男からストーカのような付きまといにあい、その男は住んでいるアパートまで押しかけてきた。そこに割って入ってきたのが、殺したはずの夫の和希だった。崖から突き落として殺したはずなのに。

この小説はSFでもなく、魔法が出てくるわけではない。なので、この状況がなぜ発生したのかを物語として完結させなければならないが、見事にそれを成し遂げている。これ以上言及するとネタバレになるので、書けない。もっとミステリー寄りの作品かと思った読み出したのだが、どうやら違うような気がする。amazonでこの著者の他の作品を調べてみたが、ミステリーを書いている作家ではないようなので、作者がミステリーを志向して書いたのかどうかは分からない。

子供は怖い夢を見る

宇佐美まこと氏の子供は怖い夢を見るを読んだ。この本は表紙のデザインを見ると暗い感じだし、「怖い夢」というようなタイトルがついているのでホラー小説であるような印象を与える。しかし、読みだすと、小説のテーマは貧困とか、児童虐待・いじめとか、新興宗教の話なのかと思わせるのだが、読み進めていくと、感染症パンデミックなのかという展開になるのだが、実はファンタジー小説なのだという事が、真ん中あたりまで読み進めるとわかる。で、一方で友情の小説であり、家族小説でもあるだろう。

主人公は長谷部航という青年で、現在進行形の部分と、航が小学3年生の頃に起きた過去のことが交互に語られていく。それによって読者は少しづつ航の生い立ちを知ることになる。この小説はネタバラシを避けて、あらすじを書くと不可能なので詳細は書けないが、何とも言えない不思議な小説。小説の中ごろまでは話の展開がどう進むのかわからなかった。最初の展開からこのような物語に発展していくとは想像を超えていた。ただ、航に過去に起きたことと、これから過去で起きることはなんとなく読んでいて推測できたところは若干残念な部分だった。この小説がいつ頃から書き始められたのかはわからないが、感染症を扱ったのはコロナのこの世の中だからなのか。