隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

数字を一つ思い浮かべろ

ジョン ヴァードンの数字を一つ思い浮かべろ (原題 Think of a number)を読んだ。退職した刑事デイブ・バーニーのもとに大学時代の同級生であるマーク・メレリーから不可解な謎が持ち込まれた。「1000までの数字を一つ思い浮かべろ」という手紙をメレリーは受け取った。適当に数字658を思い浮かべて、同封されていたもう一つの封筒を開けると、そこには「お前が選ぶ数字はわかっていた。658だ」と書かれていた。

このような、「おや」と思わせる謎から始まるこの小説なのだが、550ページぐらいあって長いのだ。そのため前半の部分がちょっともたついたような感じがした。第一部にはもう一つ数字当ての謎が提示されていたり、詩の様ような文面の殺害をにおわすような脅迫状を送る男がなぜメレリーに目を付けたのだろうというストーリー上の起伏はあるのだが、あまりテンポの良さは感じなかった。探偵役と思われるデイブ・バーニーは元刑事で、メレリーからの相談には、「警察に届けろ」と繰り返すのみなのだ。ところが第一部の終わりでメレリーが殺害され、第二部に入ると一転この小説は警察小説の比重が増してきて、ここからはテンポがよくなった。不可解な殺害方法、つじつまの合わない犯人の痕跡、遺留物。そして、犯人の異常なこだわりが随所に表れてきてどんどん引き込まれていった。

数字当てのトリックの答えは予想がついたのだが、ではなぜ犯人がそんなことをしたのかがわからず、これは小説を読み進めるしかないところであった。この犯人像もいかにもアメリカの警察小説という感じがする。本書を読み始める前は純粋なミステリー的な小説だと思っていたが、だがこれは紛れもなく警察小説で、そうとらえ直すとなかなか面白い小説だと思う。

ただ一点日本語訳で505ページの終わりから506ページの初めに「ファイアウォールシテテムの剰余(リダンダンシー)」と書かれているのだが、剰余にリダンダンシーとルビが振られていなければ全く意味不明の所だ。これは「冗長性」と訳すべきであろう。