隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

アクティベイター

冲方丁氏のアクティベイターを読んだ。この小説のジャンルとしてはスパイ小説に属するだろう。

物語は中国のステルス爆撃機が領空侵犯し、スクランブル発進した空自の戦闘機が相手側から亡命を求める通信を受けるところから始まる。ステルス爆撃機羽田空港への着陸を要求し、半ば強引にそれを実行する。よって、此の事案を扱う警察組織は警視庁という事になり、警察庁からは警備局の鶴木誉士郎警視正が現場の指揮を掌握するために送り込まれた。一方、その鶴木の義兄である真丈太一はアネックス綜合警備保障という警備会社に勤務しており、世田谷の揚という中国人顧客から発報された緊急警報に対応すべく、現地を訪れたのだが、揚は胸を刺されていて既に虫の息であった。襲撃者2人を何とか無力化しり、陽から何とか聞き出せた最後の言葉は、「三日月計画に介入」という言葉であった。

このような出だしで始まる小説なのだが、私は熱心は冲方丁氏の読者ではないので、殆どその著作は読んでいないけれど、この種の小説は今まで書いていなかったのではないだろうか?この小説で、鶴木と真丈を結び付けている既にいない真丈の妹であり鶴木の妻のことがたびたび言及されるので、この小説に先行する小説があるのかとも思ったのだが、存在しないようだ。スパイ小説としてはなかなか楽しめる作品だと思う。物語はこの三日月計画をめぐる話と、中国からやって来たステルス爆撃機の話はがっちり結びついていく。かかわっている人間が手の内を明かさないので、何が起きているかというのは最後の方まで読んでいかないとわからない仕掛けになっているのは当然の所だろう。

この手の小説だとスマホとか携帯電話は魔法のデバイスになっていたり(特にP504の所)、携帯電話からGPSの情報だったり、所有者の情報だったりが抜き放題になっているが、それは物語をスムーズにするためにとしてもやり過ぎだ。最近ペガサスというスパイウェアが話題になっているが、そのようなツールを何とかしてターゲットの端末にインストールしない限りは無理だろう。

この小説のもう一つの特徴として、真丈のねちっこい程の格闘の描写があると思う。何をしているか全く想像がつかないところもあるが、もしかして格闘の場面をメインに書きたかったのではと思ってしまった。