隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

北緯43度のコールドケース

伏尾美紀氏の北緯43度のコールドケースを読んだ。本作は第67回江戸川乱歩賞受賞作である。

物語の舞台は札幌の警察であり、タイトルに「コールドケース」とついているように未解決事件を扱ったミステリーだ。物語は取り壊されることになっていた倉庫で少女の遺体が発見されたところから始まる。その遺体は5年前の2013年に誘拐された少女で、犯人の男は身代金受け渡しの後に電車にはねられて死亡した。共犯者の捜査が行われ、誘拐された少女の捜査も行われたが、どちらにもたどり着けず、未解決事件となっていたのだ。それが、5年後、成長した少女の遺体が忽然と現れたのだ。そして、その後この事件も遺体がどのようないきさつで遺棄されたのか全く分からず、再び未解決事件として終結してしまうのだった。

この部分まで約77ページである。誘拐事件も、死体遺棄事件も、詳細が語られず、終わってしまって、読者はここで放り出される形になる。主人公の沢村依理子は第2の死体遺棄事件の時所轄の刑事課に配属されていたが、その後に続く物語は一年半後に始まり、彼女は生活安全課に配置換えになっている。色々あったことが想像されるが、なかなか作者は明かしてくれないのだ。そこのところがちょっともどかしく、また別な事件が当然のことながら発生しているし、主人公が捜査課の刑事ではないので、直接捜査できない。なので、いつになったらコールドケースに戻るのだろうと、ヤキモキしながら読み進めた。

第一の誘拐事件と第二の死体遺棄事件は当然つながっていて、誘拐された少女が5年間にわたって育てられていたという状況がどのように説明されるのかが本ミステリーの肝のひとつで、なるほどという説明がなされている。ただ、犯人があまりにも簡単に落ちたところがちょっとどうなのだろうとは思ったが、なかなか面白いミステリーだった。あと、「弌英大学」という名前の架空の大学が出てくるのだが、説明がほとんどないので、どんな大学なのかよくわからなかった。なので、主人公が弌英の博士課程修了という肩書になっているのだが、どういう風にそれを理解すればいいのかよくわからなかった。