隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

ハーバード日本史教室

佐藤智恵氏のハーバード日本史教室を読んだ。ハーバード大学で日本史がどのように教えられているのかが具体的に書かれている(使用するテキストとか、どのような議論がなされるのかなど)本なのかと思って、読みだしたのだが、実際にはハーバード大学において日本史の講義をしている教授にインタビューしたものをまとめた本だった。どのように教えているのかはところどころに書かれてはいるが、思っていた本とはちょっと違う内容だった。


P48に「ただ確実に言えることは、経済成熟国が再び3〜4%の経済成長率を達成した例はないという事です」と書かれている。この話はよく聞くことだが、元のネタは何なのだろうという疑問もわく。ただ、十分に経済的に成長した国においては、「率」で考えれば、幾ら「量」がそれなりにあっても、値は小さくなるのは当たり前と言えば当たり前かもしれない。それにもかかわらず、本書に書かれている通り、何か数字をいじくってまで国民に過大な期待を抱かせるのは誤った方法だろう。

P90に「明治維新について書かれた他の本も読んでみましたが、驚くことに、日本の歴史学者が書いた本のほとんどがマルクス主義の視点から書かれていました」と書かれている。以前に院政とは何だったか - 隠居日録を読んだ時も驚いたが、1950年代はマルクス史観が歴史学会には満ち溢れていたという事なのだろうか。マルクス史観においては、明治維新は「封建制から資本主義に移行する過程の妥協的制度としての絶対王政が現れた」、「討幕運動は、天保の改革を端緒とした階級闘争」であった、「幕府を転覆するために武士と農民が起こした反乱」などと、今から見るとどうしてそうなったというような歴史観が書かれていたようだ。

P113に「日本は世界一のスピードで電化した」と書かれていて、「鉄道普及が早く、鉄道とともに電線が伸びていき」と書かれているのだが、鉄道が電線敷設の牽引になったというような論旨だと思うのだが、鉄道を運行するための電力と、駅舎を動かすための電力は別だろうし、むしろ電線が伸びていかないと駅舎が稼働させられないので、これは理由として正しいのだろうかと疑問に思った。