隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

王家の遺伝子 DNAが解き明かした世界史の謎

石浦章一氏の王家の遺伝子 DNAが解き明かした世界史の謎を読んだ。

タイトルで述べられている王家とはイギリスとエジプトのことだ。イギリスの王に関しては2012年に駐車場で発見された人骨にまつわる物語で、この人骨発見の件に関して10年前のことだが、全く記憶ななかった。結論から言うと発見されたのはリチャード3世だった。この王はいわゆる薔薇戦争の時のヨーク家最後の王だ。人骨のDNAを抽出して、誰である可能性が高いのかを鑑定したわけだが、以前からこの種の鑑定はどのように行っているのか不思議に思っていたが、その概要に関して本書に書かれていた。

我々のDNAの中には4つの塩基の組み合わせが繰り返し何度も続く箇所が複数あることが知られている。この繰り返しをマイクロサテライトと呼んでいる。父由来と母由来のDNAに含まれるマイクロサテライトの繰り返し数の微妙な差異により、DNA鑑定を行っているというのだ。リチャード3世のDNA鑑定に用いられたのはDYS643というマイクロサテライトで、これはCTTTTという5文字の繰り返し領域である。このDYS643の繰り返し数が、人によって、8、9、10、11、12、13、14の7パターンあり、その頻度はそれぞれ、2、9、41、22、19、6、2パーセントであることがわかっている。DYS643はY染色体上に1つしかないので、父のDNAの繰り返しの数と子の繰り返し数が違えば親子関係に疑いが生じることになる。駐車場から発見された人骨がリチャード3世だとすると、子孫を探さなければならないが、リチャード3世には遺児がいないので、Y染色体による鑑定はできない。

親子鑑定に重要なもう一つのDNAはミトコンドリアDNAだ。これは母から男女ともに子に受け継がれる。リチャード3世には姉のアンがおり、アンから女系親族を辿ると、子孫が二人見つかった。ミトコンドリアDNAを比較すると、一人とは完全に一致し、もう一人とは16569塩基中1つだけ異なっていた。その結果、人骨はリチャード3世であろうという事になったのだ。