隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

シンクロニシティ 科学と非科学の間に

ポール・ハルパーンのシンクロニシティ 科学と非科学の間に (原題 SYNCHORNICITY)を読んだ。synchronicityという英単語の意味は同時性とか同時発生というような意味だが、この本では「意味のある偶然の一致」を意味している。本書で出てくる例としては、「都会に住む一人の少女が大火事の夢を見たならば、その瞬間、ある地方の少年が納屋の干し草に火をつけようとする」というようなことだ。二人の間には何ら関係がないが、ユング曰く普遍的精神とのやり取りを通じて、非因果的に結びついている場合、それはシンクロニシティだというのだ。もちろん、現在の科学ではこれを説明できないのだが、ユングは物理学者ではなく精神科医である。ユングは1952年に「シンクロニシティ:非因果的関連の原理」という発表をしたらしい。

本書のタイトルが「シンクロニシティ」となっているので、何かとんでもないことが書かれているような印象を受けた。しかし、本書は至極まっとうな読み物で、我々人類がいかにしてこの宇宙を司っている原理を理解してきたかという事を、ギリシャの時代にさかのぼって解説している本である。第7章にユングと物理学者のパウリの交流が書かれていて、ありていに言えばその章がシンクロニシティについて正面から扱っている。だが、他の章はいかにして我々が量子力学を発見し、理解してきたかの道のりに関して書かれている。

もっとも、「量子もつれ」状態にある量子の観測に関しては、「意味のある偶然の一致」に見えなくはない。一方の状態が観測によって確定すると、他方の状態も確定するというような現象は、この二つの量子の間に何らかのなつながりがあるかのように思わせる。しかし、この現象をもってシンクロニシティが成立していると表現するのは、やり過ぎだろう。これは偶然に一致したのではなく、量子の性質として確定しているはずだから、混同してはいけないだろう。