隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

別れの色彩

ベルンハルト・シュリンクの別れの色彩 (原題 Abschiedsfarben)を読んだ。本書は短編集で、「人工知能」、「アンナとのピクニック」、「姉弟の音楽」、「ペンダント」、「愛娘」、「島で過ごした夏」、「ダニエル、マイ・ブラザー」、「老いたるがゆえのシミ」、「記念日」の9編が収録されている。

本の雑誌社【今週はこれを読め! ミステリー編】記憶を通じて世界を見る人々〜ベルンハルト・シュリンク短篇集『別れの色彩』 - 杉江松恋|WEB本の雑誌を読んで、興味を持って読んでみた。カテゴリーはミステリーになっているので、ミステリー的な作品かと思ったのもこの本を読んだ理由のひとつなのだが、ミステリアスなストーリー展開はあるものの、ミステリーとは言えない作品だった。本の雑誌で紹介されているように、いくつかの作品は「信頼できない語り手」によるストーリーにもなっていて、その点も興味があった。

最初の作品の「人工知能」も信頼できない語り手によるストーリーなのだが、この作品のタイトルが人工知能になっているのがよくわからなかった。ドイツ語の原題も正に人工知能という意味の言葉なので、適当に日本語のタイトルをつけたわけではないようだ。主人公とその亡くなった旧友が総合情報科学情報工学の分野に関わっていたようなのだが、それが具体的にどのような内容であったかは書かれていない。この物語の主人公はかって友人を陥れたという負い目があり、そのことを友人に隠してきたのだが、どうやら友人の娘に知られたようなのだ。しかし、物語の最後は謎のままに終わっている。娘が結局どのような行動に出たのかわからないし、主人公の男は自分に都合のいい思い、あるいは妄想にふけって終わっている。

ちょっと驚いた展開だったのが、「愛娘」だった。良好な関係にある血のつながらない義理の娘が同性愛者で、女性同士で結婚した。体外受精で何度か妊娠を試みたがうまくいかずに、それが原因で義理の娘はふさぎ込んでいる。昔のように泊りがけのスキーに誘って励まそうとして出かけた夜の事。男の妻と娘のパートナーは翌日合流する予定になっていた。男は夕食にワインを飲み過ぎてしまい、夜ベッドに入ってきたのは妻と誤解してしまい、娘と性的な関係を持ってしった。その後娘は妊娠する。この本に収録されている作品はタイトルにあるように「別れ」に関係している筈なのだが、この短編における別れとは何なのだろう?義理の父親としての立場との別れなのだろうか?ちょっとよくわからなかった。