隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

ロートケプシェン、こっちにおいで

相沢沙呼氏のロートケプシェン、こっちにおいでを読んだ。本書は午前零時のサンドリヨンの続編だ。本書も連作短編となっており、5編が収録されているのだが、メインのストーリーの前に「トモ」と呼ばれている少女のモノーローグ文が挿入されており、その少女が誰かというのが、第5編目の「ひびくリンキング・リング」の謎となっていて、作者は巧みに誰かわからないように、ほかのだれかと思わせるような記述にしていて、ここは見事に騙されてしまった。

前作の最後で須川は初にクリスマスプレゼントを渡したところで終わっていたが、本作はその時間軸の延長で始まっている。しかし、二人の間には特に劇的な進展がないまま物語は終わってしまった。作者に本作品を継続する気があるのか、各チャンスがあるのかわからないが、二人がくっついてしまったら、そこで例愛小説風のラブコメの所は終わってしまうだろうから、永遠にこのままなのだろうと思う。

一つよく判らないのは2編目の「ひとりよがりのデリュージョン」に出てきた謎の指なのだが、その部分は単なる見間違いか何かなのだろうか?説明されいなかった。

午前零時のサンドリヨン

相沢沙呼氏の午前零時のサンドリヨンを読んだ。本作は第十九回鮎川哲也賞受賞作だ。本書には四編が収められており、連作短編の形式になっている。

高校一年の須川が一目ぼれしたクラスメート酉野初はマジシャンだった。レストランバー「サンドリヨン」で客にマジックを見せるアルバイトをしている。マジックをしている初は生き生きしているのだが、普段の初はなぜ人間関係に臆病なようで、いつも一人で過ごしている。一方須川の方はポチというあだ名があり、ちょっと優しすぎるぐらいの男子だ。

初は魔法使いになりたいと思っていた。誰かを励ましたり、楽しませてあげたり、そんな魔法をかけることのできる魔法使いになりたいと思っていた。しかし、現実にはそううまくはいかない。本作はそんな二人の青春小説風・恋愛小説風の日常のミステリーだ。

本書を読んで物足りなさを感じた。例えば一話目の「空回りトライアンフ」ではクラスメートの慶永裕美が同じ図書委員の同級生からいじめにあっているというストーリになっているのだが、具体的なことは何も書いていない。そのいじめを回避するために、慶永裕美は上級生の瑠璃垣蘭子に助けを求めた。だが、実は四話目の「あなたのためのワイルド・カード」では慶永裕美は瑠璃垣蘭子をひどく恨んでいることが明かされる。そのような上級生に助けを求めるだろうか?また、二話目の「胸中カード・スタッブ」で瑠璃垣蘭子の心無い言葉で仲の良い同級生の柏京子を傷つけるが、その内容に関しては触れない。実は瑠璃垣蘭子は過去に同級生の藤井綾香にも心無い言葉で投げつけた。藤井綾香はその後自殺したことになっているのだが、その詳細にも触れていない。わざと説明していないのかどうかわからないが、このあたりが物語として物足りなさを感じた。

本シリーズには続編があるようなので、そちらも読んでみようと思う。