隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

時代小説

励み場

青山文平氏の励み場を読んだ。「励み場」とは「励めば報われる仕事場」という意味である。本編は名子の青年が勘定書の普請役となり、そこから勘定支配に這い上がって、更に上を目指そうとしている姿を描いている。名子という言葉は本書を読むまで知らなかっ…

つまをめとらば

青山文平氏のつまをめとらばを読んだ。本作品は第154回直木賞受賞作品だ。短編集で、表題作の「つまをめとれば」の他に、「ひともうらやむ」、「つゆかせぎ」、「乳付」、「ひと夏」、「逢対」が収められている。今までの青山作品は、江戸幕府開闢から150年…

鬼はもとより

青山文平氏の鬼はもとよりを読んだ。主人公は浪人の奥脇抄一郎。表向きは万年青の商いをしているが、裏では諸藩に向けて藩札板行指南をしている。物語の前半は奥脇抄一郎が浪人する前のことが語られる。当時はある藩で馬廻り役をしており、剣に入れ込んでい…

かけおちる

青山文平氏のかけおちるを読んだ。本書は四つの駆け落ちの物語である。と言っても連作短編ではなく、長編小説だ。主人公は柳原藩執政阿部重秀だ。政阿部重秀は家業として鮭の種川に取り組んでおり、ようやくその結果が出たところであった。鮭の種川とは鮭が…

約定

青山文平氏の約定を読んだ。本書は短編集で、「三筋界隈」、「半席」、「春山入り」、「乳房」、「約定」、「夏の日」の6編が収められている。本書の二編目に「半席」という作品が収められているが、寡聞にしてこの半席という言葉は知らなかった。 御家人か…

流水浮木 最後の太刀

青山文平氏の流水浮木 最後の太刀を読んだ。江戸時代の武士は家計の助けのためにいろいろな内職をしていた。鉄砲百人組の内職はツツジの栽培が有名であるが、本書ではツツジではなくサツキと書かれている。サツキはツツジの一種であるし、苗木で売っていたと…

敵討ちか主殺しか (物書き同心居眠り紋蔵)

佐藤雅美氏の物書き同心居眠り紋蔵シリーズ「敵討ちか主殺しか」を読んだ。このシリーズも非常に長く続いていて、本作で14作目だ。前作では驚いたことに別シリーズの登場人物蟋蟀小三郎が登場していて、今後も登場するのかと思ったら、本作には登場しなかっ…

白樫の樹の下で

青山文平氏の白樫の樹の下でを読んだ。以前遠縁の女 - 隠居日録を読んで、面白かったので他の作品にも手を出してみた。読み終えて、改めて文章がうまいと思った。江戸の町名、橋、川が文章中にちりばめられており、そこを実際移動しているかのような印象を受…

遠縁の女

青山文平氏の遠縁の女を読んだ。本書には短編集で、表題作の他に「機織る武家」、「沼尻新田」が収められている。面白かったのは、「機織る武家」と「遠縁の女」だ。機織る武家は主要の登場人物の関係がまず面白い。家付きの娘であった姑、その娘婿由人、由…

家康、江戸を建てる

門井慶喜氏の「家康、江戸を建てる」を読んだ。タイトルからすると家康が主人公のような印象を与えるが、本書は連作短編小説で、実は家康は脇役でしかなく、家康が江戸の入府する際に江戸のインフラ等を作った男たちの物語だ。五編の物語が収められている。 …

決戦!関ヶ原

決戦!関ヶ原を読んだ。本書は関ヶ原の合戦にちなんだアンソロジー時代小説だ。収録作品、作者、主人公は以下の通り。 人を致して 伊東潤 徳川家康 笹を噛ませよ 吉川永青 可児才蔵 有楽斎の城 天野純希 織田有楽斎 無為秀家 上田秀人 宇喜多秀家 丸に十文字 …

情け深くあれ 戦国医生物語

岩井三四二氏の情け深くあれ 戦国医生物語を読んだ。本書は織田信長が足利義明を奉じて京都に上洛した永禄11(1568)年から物語が始まる。京都の上京の内裏近くにある曲直瀬道三の啓迪院で修業中の英俊は国許の丹波で起きた事件のために、国を棄て、医生として…

美女二万両強奪のからくり (縮尻鏡三郎)

佐藤雅美氏の 美女二万両強奪のからくりを読んだ。本書は縮尻鏡三郎シリーズの一編だが、今回の物語は梶川三郎兵衛が物語を動かしている。江戸幕府は寛政四(千七百九二)年二月に柳原に町会所・籾蔵を設置させた。これは民営の窮民救済、備荒貯蓄、兼金融機関…

犬飼六岐氏の蛻を読んだ。尾張徳川家の下屋敷には戸山荘という庭園があり、その中には東海道の宿場町を再現した町山であったという。物語は享保、八代吉宗の時代に、この戸山荘の宿場町である御町屋に、当時の藩主の宗春がより実際に近い町屋を再現するため…

男嫌いの姉と妹 町医北村宗哲

佐藤雅美氏の男嫌いの姉と妹 町医北村宗哲を読んだ。本巻で北村宗哲シリーズの完結である。あたらに仙台伊達家浪人長井半四郎が登場し、物語に深くかかわっていき、結局は半四郎を中心にして、物語が収束することになる。江戸の夜の街は長井半四郎の登場によ…

口は禍いの門 町医北村宗哲

佐藤雅美氏の「口は禍いの門 町医北村宗哲」を読んだ。本巻では江戸の裏の世界は正に戦国時代に突入している。黒門の喜助は両国広小路の伊右衛門に毒を盛らせて亡き者にした。伊右衛門の後を継いだのが、熊五郎という子分だが、力がなく、縄張りを竜次にとら…

やる気のない刺客 町医北村宗哲

佐藤雅美氏のやる気のない刺客 町医北村宗哲を読んだ。シリーズの2作目で、本巻で物語が大きく動き出した。江戸の主だった顔役は宗哲と縁のある黒門の喜之助、両国広小路の伊右衛門、市ヶ谷八幡前の庄之助、二丁町の安五郎、深川門前中町の辰五郎、本所鐘撞…

町医 北村宗哲

佐藤雅美氏の町医 北村宗哲を読んだ。本シリーズは今までに4冊出ており、すでに完結している。本シリーズの主人公は北村宗哲という医者で、芝明神前で開業医をしている。宗哲は医者の倅であったが、妾の子であり、本妻に長男がいたため、父が死んだことによ…

頼みある仲の酒宴かな (縮尻鏡三郎)

佐藤雅美氏の頼みある仲の酒宴かなを読んだ。しくじり御家人こと拝郷鏡三郎シリーズの一編。おなじみの北の臨時廻り梶川三郎兵衛、剣術道場主の鳥羽誠十郎に、今回は丹州浪人柴田帯刀が物語に絡んでくる。老婆ためは日本橋の白木屋の地面が自分のものだと北…

御奉行の頭の火照り (物書き同心居眠り紋蔵)

佐藤雅美氏の物書き同心居眠り紋蔵シリーズのうちの一作、御奉行の頭の火照り。本作では南町奉行所の町奉行である松平伊賀守と主人公の紋蔵との確執を描いている。結局最後には伊賀守は町奉行を更迭されてしまうのだった。驚いたことは、別シリーズである半…

わけあり師匠事の顛末(物書同心居眠り紋蔵)

佐藤雅美氏の物書き同心居眠り紋蔵シリーズの一編「わけあり師匠事の顛末」。このシリーズを最初に読んだのは文庫になっていた本で、多分1998年ころだったと思う。この本はイギリスに旅行に行ったときにロンドン近郊にあるオリエンタルシティーの中にあった…