隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

映画の正体 続編の法則

押井守監督の映画の正体 続編の法則を読んだ。これは押井守の映画50年50本 - 隠居日録の続編的な本で、今回は映画をpart2という視点で語ったもの。前回である種語りつくした感はあるし、前巻や別の本と重複したような内容の所もあるが、今回は続編がある映画から映画を考えるという事なのだろう。そういう本ではあるが、なぜか続編映画が一本もない宮崎駿監督をあえて取り上げている辺りは、本当に宮崎駿という監督・人間を語るのが好きなのだなぁと思った。

続編映画を作るという視点では監督とプロデューサー側から語り、続編映画を見たいという視点からは観客を語っている。結局は見たい人がいるから、作ることになるというのがある種結論になっている。私は完全に観客なので、なぜ続編を見るのかと言えば、物語の構造がわかっているから、単純に物語を楽しめるという点だと思う。実は先日不思議なフランス映画を見た。

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この映画はあらすじを見るとサスペンスのように見えるが、それほどのサスペンスの要素はないと思う。「自分をもてあそんだ犯人の正体を突き止めるべく」と書いてあるけれど、真剣に正体を突き止めようとはしていない。ただ、この女性を揶揄する動画がメールで送られてきて、それの犯人を捜すように社員と裏取引するところはあるのだが、そっちの方はあっけなく解決してしまう。この女性は過去に父親が連続殺人を犯して、刑務所に収監されていて、その話が後半にクローズアップされるのかと思えば、それもなし。この映画はこの女性も含め、殆どの登場人物が何かおかしくて、ただただそれを描いただけの映画で、犯人の正体に迫る部分を深く掘り下げる映画ではなかった。サスペンスとは呼べないだろう。事前にそれがわかれば見なかっただろうとは思う。よくよく考えれば、殆どの映画は大したことはないような気がするし、見なくても何の問題はないだろう。けれど、そうと分かっていても、なぜか見てしまう。

興味深かったのは、うる星やつらも、パトレーバーも、攻殻機動隊もpart3へのアイディアは既にあるというのだ。ただ、発注はない。発注があれば、やる気満々のようだ。ただどれをとってもストレートな続編ではないのだとは思う。

押井守の映画50年50本

押井守監督の押井守の映画50年50本を読んだ。1968年から2017年までの間の映画から原則1年に1本5を選んで、その映画に関して押井監督が語るという内容の本。押井監督が語りたいと思うということが選択の基準でり、必ずしも優れた作品が選ばれているわけではない。たとえば、1998年からは「ベイブ/都会に行く」が選ばれていて、実は押井監督は一作目の「ベイブ」は大傑作だが、二作目は「問題外」だと切って捨てている。そして、1998年ではなぜ一作目が大傑作で、二作目がダメなのかを語っているのだ。

2020年の5月にNHKBSプレミアムで「新幹線大爆破」(1975年)を放送しており、以前一度見た記憶があって、見てみたらそれは勘違いだった。子供の頃に見たので、ほどんど記憶に残っていないのだが、覚えていたのは新幹線を止めるシーンで、子供が見ても撮影したフィルムを止めて、新幹線を止めていたのは明らかで、あまりにもの出来の悪さに驚いた。しかし、放送されて映画を見てもそのようなシーンはなく、あれは何だったのだろうと思っていたのだが、どうやら記憶していたのは「動脈列島」のようで、本書で「ハイスピード撮影して、コマ数を調整して、それで強引に止めていた」と書かれていた。この記憶の食い違いが、なんとなくモヤモヤしていたので、解消してよかった。この中で、「 面白ければ、映画は都合で作っていんだ」と書かれていて、これは自分に対するいいわけでもあるのかなぁと思いつつ読んだ。

印象に残っったのが「宇宙戦争」(2005年)で、

押井 「あれぇ~?」ってなるよね。中盤でもう一生会えないって話をして別れたんじゃなかったっけ?「むちゃだろ!」とツッコまずにはいられない。なおかつ、元奥さんとよりを戻すでもない。息子と抱き合うだけで終わり。序盤で息子にハグを拒絶されていたからさ、息子との関係がちょっとだけ修復しましたってさ。それで主人公は「じゃ!」とか言って帰るんだぜ。玄関先で「じゃ!」じゃねえだろう。ここまで死ぬ思いをして送り届けたのにさ、元奥さんも元奥さんだよ。上がってお茶でも飲んで行けって話じゃない?

と語っている。今まで「宇宙戦争」見たことがなかったのだが、この説明を見て、一体どんな風になっているのだろうと俄然興味が湧いた。確かに、この終わりなないなぁ。

2021年5月17日追記
2021年5月16日にBS日テレ宇宙戦争を放送していて、録画して見たが、「じゃ!」のシーンは存在していなかった。カットしているようには思えないので押井監督の記憶違いではなかろうか。でも、やっぱり、息子はどうやって家に辿り着いたのかは最大の謎だ。ただ、元奥さんは再婚しているか恋人がいるようなので、よりを戻すのは無理だろう。

もう一つ印象に残ったのが、「ウォッチメン」(2009)の所で語られる「エンジェル・ウォーズ」。これも数年前にテレビで見たのだが、登場人物の女性がセーラー服で戦うのは日本のアニメとかコミックの影響だと思っていたら、押井監督曰くこれはセーラームーンだと。そこまでは思い至らなかった。この映画のストーリーが不思議だったのは、メインで戦っている彼女の妄想だと思ったら、別人の妄想の中で戦っていたというような感じになっていて、アレ?と思った記憶がある。