円城塔氏のSelf-Reference ENGINEを読んだ。例外小説の中からピックアップした本の中の一冊である。
本作には22編の短編が収められており、それぞれ関連しているようで、関連していないかもしれない。同じ名前を与えられている登場人物が登場する話もあるが、それが全くの同一体であることを保証することはできないのかもしれないし、する必要もないであろう。ただ一つ、それとなく示唆されているのは、イベントの発生により、この世界の時間の進み方が、過去から未来ではなくなった世界を描写した短編小説の物語群が本書である。
いくつかの話は関連性があるようにも見える。例えば、「Bullet」は母親の胎内にいるときに未来から銃撃され、頭蓋骨に銃弾があるリタとその幼馴染のジェイムズとリチャードの物語だ。これと同じ登場人物が「Return」にも出てきて、続きのようにも読めるが、本当に続きなのだろうか? 続きと読んでも差し支えないだろうし、別の物語とみなしても構わないだろう。この世界では、巨大知性体により絶えず何者かと電子戦が繰り返され、過去が改変されているのだ。それもこれも、イベントの所為である。
最後の所で、タイトルになっているSelf-Reference ENGINEが何者かが書かれている。
私の名はSelf-Referene ENGINE。
全てを語らないために、あらかじめ設計されなかった、もとより存在していない構造物。
そう、この小説とはこういう小説なのだ。各短編に何らかの面白味を感じられればそれでよし。