隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

不便ですてきな江戸の町

永井義男氏の不便ですてきな江戸の町を読んだ。永井氏は作家・江戸風俗研究家で、本書は小説の体裁をとっているが、どちらかというと江戸の生活・風俗を紹介・解説することが主軸だと思う。

物語の主人公は出版社勤務の島辺国広と大学を定年退職し古文書解読講座の講師をしている会沢竜真。島辺国広が伯母の家に江戸時代に通じるタイムホールを見つけて、江戸時代の探検に会沢竜真の助けを借りて出かけていくという構成になっている。

一口に江戸時代に行くと言っても、まずわれわれ現代人が何の準備をせずに行っても、あっという間に行き詰ってしまうだろう。現代のお金は江戸時代では使えないし、身なりにしても、洋服と和服の違いはあるし、髪形の問題もある。島辺国広が偶々江戸時代に迷い込んだときに持ち帰ってきた暦をもとに、時空がつながっている先の江戸は文政八(1825)年だと判断した会沢竜真は、当時のお金を古銭商で仕入れたり、着物をあつらえたりと準備にかかる。また、髪形は髷を結うのはハードルが高いので、長崎から来た医師とその弟子ということにして、頭を丸めることにした。そうして、準備を整えて江戸に旅立っていくのだった。

現在の日本と19世紀前半の江戸時代では衛生の概念が違うので、いろいろ苦労するだろう。トイレにしても、今時は水洗が当たり前だが、江戸時代は汲み取りが当たり前で、その溜まった下の物を下掃除人が回収して、肥料にしていた。当然それは往来を取って運ぶわけで、そんなところに出くわしたら、とんでもない匂いだろう。私自身も、最近は様式に慣れてしまっているので、和式のトイレはかなり足にくるのではないかと想像する。

作者は江戸風俗研究家でもあり、本書は、小説の部分とそこに出てきた江戸時代の生活・風俗の解説の部分とに分かれていて、小説では解説しきれない部分もわかるようになっているので、なかなか面白い作りになっている。江戸の生活に興味がある人の入門書的な読み物としては好適だと思う。