隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

コルヌトピア

津久井月氏の コルヌトピアを読んだ。本作は2017年の第五回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作である。

西暦2049年東京都心南部で直下型地震が発生し、荒川両岸と環状八号線沿いの建物が焼失・倒壊し、三万五千人の人々が亡くなった。その災害復興の過程で、被害地域の外縁部をぐるりと囲むように森林のグリーンベルトが作られた。ただ、そのグリーンベルトはただの森林資源ではなく、植物群棲を計算資源として活用するフロラ技術であり、世界有数の計算資源保有国となっていた。そして、震災から三十五年後、フロラ開発設計会社の調査室に勤務する砂山渕彦は多摩川地区で発生したグリーンベルトの実験区域で発生した火災事故の原因調査のため現地に派遣された。そこで、かれは天才植物学者の折口鶲に出会うことになる。

人間がフロラ計算資源にアクセスるには、ウムヴェルトを使用する。ウムヴェルトはフロラの情報処理を抽出するのに用いるヒューマン・フロラ・インターフェースで、20センチメートルほどの長さの動物の角のような湾曲螺旋形状をしたおり、フロラの通信端末部と人間の脳の間で、電場を利用した通信を媒介する。また、フロラからの情報は人間側でレンダリング(抽出)処理を行うことで認識され、フロラの情報処理の全貌ーランドスケープを体感的に処理することができる。しかし、記録されたランドスケープは抽出した人物の個人的な身体感覚の影響を受けるため、本人以外は正しく解釈することが非常に難しい。

この作品はSFらしいSF作品で、植物群を計算資源として使うというアイディアやウムヴェルトというアイテムが非常に面白く感じたのだが、起こる事件がちょっと小ぶりで、そこのところが若干不満であった。コンテスト応募作の大賞受賞作なので、今後に期待すべきなのだろう。本作のタイトルのコルヌトピアとは豊饒の角のことで、ギリシャ神はアマルティアの角に由来している。