隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

ツチハンミョウのギャンブル

福岡先生のツチハンミョウのギャンブルを読んだ。本書はどうやら週刊文春に連載されていたもの(2015年2月から2018年1月)をまとめて一冊にしたようだ。私は普段というか全然週刊文春を読まないので、福岡先生の連載が載っていること自体知らなかった。この連載は本当にエッセイとして書かれたようで、生物というか科学的成分はあまり多くない。多分一冊にまとめるにあたって、内容に基づいて分類して、章に分けたのだと思う。内容によってはいつごろ書かれたものかわかるので、全体を通してみると、時系列順に並んでいないのがわかる。三章ぐらいまではサイエンス的な内容になっているが、そのあとは昆虫、フェルメール、ニューヨーク、トランプ大統領、東京、本の話と多岐にわたった題材が選ばれていて、そのあたりから純粋にエッセイとして書かれているだと推測したのだ。

真水と塩水の実験

「真水入れたコップと塩水を入れたコップがあり、同じ大きさの氷を入れたときに、どちらの氷が速く溶けるだろうか?」これは福岡ハカセがニューヨークの公立の小学校の6年生の授業を見学させてもらった時に、出された課題だそうだ。それで、どちらが速く溶けるのだろうか?パッと考えて、溶ける速度に違いがあることは想像がつくのだが、なぜそうなるかの理由が思い浮かばない。

結論から言うと、真水のコップの方が速く氷が解ける。その理由は真水の方は氷が熔けると、水が氷に冷やされて冷たくなり、冷たい水が沈み、それが対流を促し、暖かい水が氷に接することになる。一方、塩水は重たいので、対流が起きにくく、その結果、塩水の方が氷が溶けにくいのだ。

マリーゴールドと大根

ハカセ三浦半島に散策に出かけたときのこと。濃い緑の小さな葉を付けた植物が畝に沿ってくまなく植えこまれている。こんな野菜は見たことがないと思って、農家の人に聞いてみると、マリーゴールドだという。鑑賞園芸の農家なのかと思い、花はいつ咲くのかと聞くと、「花は咲かないよ。もう少ししたら、抜いちゃうんだよ。きれいな大根を作るためにやっているんだ」という。

どういうことかというと、マリーゴールドを使い土中の線虫(キタネグサレセンチュウ)を駆除するために植えているのだ。土中の線虫が、マリーゴールドの根の匂いにおびき寄せられて、根の中に侵入する。侵入した線虫は、根の中に閉じ込められて死滅する。この後マリーゴールドは畝に鋤きこんで堆肥にする。しかも、このマリーゴールドは花が咲かないエバーグリーンという種だというのだ。

指が切断されたら

生物によっては、指が切断されても再生できるものもいるが、人間の身体はそうなっていない。なので、何らかの理由により、指が切断してしまったら、雑菌に感染しないように、清潔なビニール袋に入れて病院に持っていく。そして病院では、状態の良い指を、状態の良い切断部につなぐのだ。重要なのは血管の再結合。元がどの指であったのかは関係ないというから、ちょっと恐ろしい。