隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

砂と人類 いかにして砂が文明を変容させたか

ヴィンス・バイザーの砂と人類(原題 THE WORLD IN A GRAIN The Story of Sand and How It Transformed Civilization)を読んだ。この本を読む前は、砂漠化する大地と人類との攻防について書かれているのかと思ったが、それについても書かれていたが(第9章)、それ以上の内容だった。

砂というものと現代に生きる人類との間には強い結びつきがあり、今や切っても切れない関係になっている。まず、第一に建設材料としての砂だ。砂はコンクリートアスファルトの材料として混ぜられ、建築材料としては必要不可欠の材料になっている。コンクリートの使用の歴史は古く、2000年前のマヤ人も使っていたし、ギリシャ人もモルタルのようなものを用いていたようだ。そして、ローマ人も進んだ方法でコンクリートを活用していた。

そして、ガラスの材料としての石英砂だ。ガラスはガラス瓶、レンズ、光ファイバーと多目的に用いられているが、シリコンウェハーの原料としての石英なくして現代文明は成り立たないであろう。それだけではない。シェールガス・オイルを取り出すために、化学物質と砂を混ぜた水を高圧で頁岩に送り込むが、この砂は非常に大きな圧力に耐えられる硬い砂でなければならないので、ここでも石英が用いられているのだ。

意外なことが、リゾートの代名詞にもなっているビーチと砂の関係だ。リゾートなどという概念が昔からあるわけではなく、人々がビーチに向かうようになったのは19世紀後半のイギリスでのことで、それ以前の人々は浜辺には興味を持っていなかった。中流階級の人が増加して、彼らが余暇を過ごせるようなり、ビーチの人気が高まった。その後都市に住む下層階級の人もビーチに目を向けるようになり、鉄道が敷設されたことで、多くの人が訪れるようになった。ビーチには砂があるのが当たり前のようになっているが、ダムを作ったり、防波堤が海流を変えたことで、砂がビーチから失われるようになった。そのため、世界中の多くのビーチでは、養浜をして景観を保つようにしているというから驚きだ。何もしないで放置しておくと、ビーチから砂がなくなってしまうのだ。更には、元々砂がなかったところに砂を運んでビーチにした、カナリア諸島やスペインのバルセロナなどという例もある。

このように需要が増す砂であるが、世界各地で違法な採掘業者が勝手に砂を持ち出して売買しているという実態もある。また、このような違法な業者は地元警察や有力者とつながっている場合が多くあり、摘発を逃れていたり、地元住民と対立したりしていて、その結果殺人事件にまで発展しているケースもあるという。