隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

いのちがけ 加賀百万石の礎

砂原浩太朗氏のいのちがけ 加賀百万石の礎を読んだ。

本書は前田家家臣の村井長頼の一代記だ。物語は連作長編という形式をとっており、壱之帖、弐之帖、参之帖の3部に分かれており、それぞれに2編、3編、3編の短編が収められている。一代記なので、当然扱う時代が長くなり、16歳から始まり、晩年までの時代がえがかれている。通常こういう長い時間を扱うとなると、注目する時代・出来事以外の部分は説明書きになってしまって、それ以外の物語の部分とリズムが変わってしまい、読みにくく感じるのだが、筆者は途中を描かないという大胆な手法をとる。このように描いたのは村井長頼に関して分かっていることが少ないからなのかもしれないが。だが、このように書かれると、その間は何があったのだろうという疑問が湧いてきて、この人物への興味がさらに増したように感じる。壱之帖は利家が拾阿弥を斬り捨てたことにより織田家を追放されて放浪していた時代から織田家に戻るまで、弐之帖は本能寺の変前後から賤ケ岳の戦いまで、参之帖は唐入りから家康の加賀征伐までを扱っている。

利家が拾阿弥を斬り捨て理由を間者であったからというのは作者の創作であると思うが、ここに出てきた"みう"という名前の女も作者の創作なのだろう。この"みう"は壱之帖で退場してしまったと思ったら意外なところから再登場するという構成も面白いと思った。