隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

読書嫌いのための図書室案内

青谷真未氏の読書嫌いのための図書室案内を読んだ。表紙の裏のあらすじに「……その理由を探る浩二と蛍はやがて、三人の秘めた想いや昔学校で起きた自殺事件に直面し……」と書かれているので、ミステリーなのだろうかと思い読み始めたのだが、ミステリーというよりは青春小説だった。序章と終章の他に三編収録されていて、2話目の「放課後のキャンプファイヤー」と3話目の「生物室の赤い繭」はミステリー的なのだが、作者の意図がミステリーを書くことにあったのかどうかは分からない。

高校2年生になり、楽ができそうなので図書委員になった荒坂浩二は本当は本には全然興味がなかった。最初の委員会で司書の河合先生から図書新聞編集委員長を押し付けられ、クラスメートの藤生蛍と図書新聞を作ることになった。過去の図書新聞を参考に見てみると、読書感想文が載っていたので、それを真似て読書感想文を集めることにした。依頼する相手は、クラスメートの八重樫、美術部の緑川先輩、生物の樋崎先生の3人。緑川先輩はすぐに感想文を準備してくれたのだが、感想文には本のタイトルが書いていない。感想文を読んで本のタイトルがわかったら、感想文を図書新聞に使ってもいいという。樋崎先生は引き受けてくれたものの、安倍公房の「赤い繭」の感想文を書くから、交換条件として荒坂にも感想文を書いて見せてほしいという。表紙裏のあらすじにあった「自殺事件」とは樋崎先生のエピソードの所に出てくる学校で起きた過去の事件だ。

2話目に出てくる本が何かを明かすとネタバレになるので当然書けないが、作者の名前は聞いたことはあったが、作品は一つも読んだことがなく、クラスメートの藤生蛍が本の虫だから導き出せたのか、読んだことがあればわかる程度のものなのかの判断がつかなかった。3話目は樋崎先生が怪談めいた話を生徒にしていて、それと過去に高校で起きた事件とは関係がありそうなのだが、樋崎先生がその事件とどうかかわっていたのかを推理するようなストーリーになっている。それがミステリーのような感じの構成になっているのだ。当然作者のミスディレクションも色々ばらまかれているので、書いてあることからそのままあれこれと想像しても、荒坂のようにあらぬ方向に妄想が膨らんでしまう。作者としてはミステリーを書くというよりは、本書を通じて読書の楽しさを伝えたいという事が主眼だったのではないかと思った。なぜなら最後には荒坂も図書室で本を借りるようになったのだから。しかも、安倍公房の本をだ。私も20年以上前に安倍公房の作品を読もうと文庫本を何冊か買った記憶があるのだが、結局読まなかった。その時買った文庫本も今は手元にない。興味はあるのだが、この本を読むと安倍公房はやはり難解だなと思った。