隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

二人の嘘

一雫ライオン氏の 二人の嘘を読んだ。この本は北上次郎氏が本の雑誌で紹介していて、「目が離せない」、「前三作を急いで買ってきて、これから読むところである」と書いていたので、気になった本だ。

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片陵礼子が以前判決を起案して、実刑を受けた元受刑者が、東京地裁の門の所に朝来ているという話を耳にする。つまり、判決内容に納得できず、糾弾してくる人たちの一人ではないかというのだ。しかし、実際本人を目にすると、糾弾しているような感じではい。礼子はその男蛭間隆也がなぜそのような事をしているのか気になりだし、更に過去の裁判に何か間違いがあったのではと思い、当時の記録を調べるのだが、間違いは見つけられなかった。ここから彼女の漂流が始まる。片陵礼子は東大在学中に司法試験に合格し、判事になった。たぐいまれな美貌の持ち主で、成績もトップで、10年に一人の逸材と言われている。裁判官として任官されるとほぼ同時に司法修生時代の同期で弁護士の男と結婚し、夫の両親に彼らの家の近くの荻窪に豪邸を立ててもらい棲んでいる。何不自由ない暮らしに見えるが、彼女の心には瑕があった。八歳の時に母親に捨てられたのだ。その後は伯母に引き取られて育てられた。

北上氏も本の紹介ではこの小説がどんなジャンルの小説か書いていない。読みだして、ある種の冤罪にかかわるミステリ調の小説なのかと思いながら読み進めた。しかし、三分の一に差し掛かった辺りから、その予想は大きく裏切られる。確かに、元受刑者の蛭間に何があったのかというのは物語の重要なファクターではあるが、実際には片陵礼子のどうしても埋められない心の穴についての物語なのだろうと思った。これ以上はネタバレになるかもしれないが、プロローグからして、この物語がハッピーエンドで終わるとは思えないことは示されている。読後も心のザワツキがなんとなく収まらない。このような物語になるとは、最初の部分からは想像もできなかった。