隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

らんたん

柚木麻子氏のランタンを読んだ。恵泉女学園創始者である河井道の物語。明治・大正・昭和と非常に長い時間を描いている物語で、全く財力も資金もない女性が学校を創設し、育てていく様を、色々な人物との交流を通して描いている。多数の実在の人物が登場しているが、残念ながら、私には実際にそれらの人々と河井道が本当に交流があったのかどうかは分からない。柚木麻子氏自身も恵泉の出身のようなので、以前から温めていたアイデアなのかもしれない。

この小説は構成に驚いた。最初に登場するのは一色乕児で「渡辺ゆりにプロポーズした」と始まり、19ページ目で渡辺ゆりの過去になり、28ページで河合道になって、そこから270ページ辺りまで一色乕児は全然登場しないのだ。その後も一色乕児は思い出したようにしか登場しない。この物語は河合道と一色ゆりと彼女たちに繋がっている女性の物語なので、致し方ないのだろう。

実在の人物が出てくる小説というのはどうも読み方が難しい。書いてあることと実際のことは必ずしも一致しないであろうから、小説からその人物を知ってしまうと、何が本当で何が本当ではないのかの区別がつかなくなってしまう。その部分を差っ引くと、読んでいて楽しい小説ではあった。

ただ、一点気になったところがあった。351ページに「朝鮮や中国がルーツの子もいるもの」と登場人物の少女が言うところがあるのだが、昭和16年に「出自」とか「出身」という意味でルーツという言葉を使うのは非常に違和感がある。このような意味でツールという言葉を日本人は使っているが、昭和16年にはありえないだろう。