隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

夜の都

山吹静吽氏の夜の都 を読んだ。何とも言えない不思議な小説だった。

大正時代に父と義母とともに日本にやって来た14歳の少女ライラは、父の仕事の間保養地のホテルで過ごすことになった。ホテルの近くにある古い祠に迷い込んだライラは、岩窟の中にある岩井戸の底から湧き出た星のような小さな光の粉が眼に入ってしまう。部屋に帰りつくと、猛烈な睡魔に襲われ、そのまま真っ暗闇の空間を落下し行くような感じがして、気が付くと見知らぬ場所にいた。何処かで電話機のベルが鳴っていて、電話に出たライラに語り掛けてきた相手は、「月の姫より直々に眠りの魔術を授かりし禍の魔女」で「クダン」と自らを呼ぶようにと言った。それがライラとクダンの出会いであり、ライラはクダンの弟子となるのだった。

色々なことが詰め込まれている。クダンは当然「件」であるのだが、なぜ魔女と名乗っているのかちょっと不明だった。この物語の中でクダンは千年以上存在しているのだが、そんな昔から魔女という言葉があるのかと不思議に思う。実際にはここにも言葉の問題があるはずで(クダンが話すのは日本語だろうし、ライラのは英語だろう)、一体どうやって彼らは意思の疎通をしているかという疑問もあるので、「魔女」という表現自体は些末なことかもしれない。クダンによると魔女は亡者を現世から消滅させることをしているようなのだが、しかし、別の魔女によるとそんなことはする必要がないという。これが必要なのか不必要なのか、物語上で決着が着いていないような感じがして、読み終えて後に、なんとなくもやもやした感じが残っている。