隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

かくして彼女は宴で語る 明治耽美派推理帖

宮内悠介氏のかくして彼女は宴で語る 明治耽美派推理帖を読んだ。この作品は連作短編ミステリーで、著者自身が第一話の覚書で明かしているように、アイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」の形式を明治時代の実在の芸術家のパンの会に当てはめている。メインの登場人物である木下杢太郎はなんとなく名前を聞いたことがあるような気がするぐらいで、パンの会のメンバーで名前を知っているのは北原白秋ぐらいだが、作品を読むうえでは知らなくても何ら問題はなかった。

本書には6編収録されていて、それぞれのタイトルは「菊人形遺聞」、「浅草十二階の眺め」、「さる華族の屋敷にて」、「観覧車とイルミネーション」、「ニコライ堂の鐘」、「未来からの鳥」となっている。最初の2編はちょっとどうだろうという内容で、特に2編目の「浅草十二階の眺め」はちょっと理解が及ばない推理が展開されて、この小説ははミステリーとしてどうなのだろうと思ったが、残りの4編は普通に面白く読めた。三作目の「さる華族の屋敷にて」は実際にあったの「男三郎の事件」を巧みにストーリーに取り込んだ辺りが特に面白かった。また、「観覧車とイルミネーション」も語り手が全てを語らないところがある種の倒叙的なストリーになっているところが面白いと思った。

黒後家蜘蛛の会のストーリー構成に倣って、実際に謎を解くのはパンの会の面々が集っている「やまと屋」の女中の綾乃なのだが、最後の最後に彼女の正体が明かされている。ただそれはなんとなくそれは蛇足のように感じられた。綾乃も実は実在の人物という事になっているのだが、実際の彼女が推理に優れていたというような話はなかったと思う。