隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件

白井智之氏の名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件を読んだ。

本書と直接関係のないことから書き始めるが、先日「ペトラは静かに対峙する (原題 Petra)」という映画を見た。その後、filmarks.comのレヴューを見て、
cache.yahoofs.jp*1
チェーホフの銃」という言葉を知った。実はこのミステリーはまさにこの「チェーホフの銃」の説明にぴったりなミステリーだった。小説には無駄なエピソードなど書いてはいけないのだが、ミステリーは更に本当に無駄をそいで必要最小限のことだけを書くべきだと、改めて感じた。例えば、冒頭にある前日譚のストーリーも重要な意味を持って最後の最後で使われる。また、その前にあるストーリーのタイトルのようなものも、意味があってそのようになっている。また、何度も繰り返される「探偵は加害者になりうる」とか「信じてるものと現実に乖離が生じたときに、矛盾が生じないように辻褄合わせをして、あるものを無いと見なしたり、ないものをあると見なしたりする」など、このミステリーを構成する重要な要素で、これなくしてはかなりトリッキーな作品になってしまうだろう。

この物語は探偵大塒の助手が去る筋から依頼された調査のためにある新興宗教に調査に出かけ、連絡が取れなくなったことから、探偵が助手の不在を不審に思い、自分で助手の救出に出かけていって遭遇した連続殺人事件のミステリーだ。助手が無事だったのだが、他の2名の調査員と半ば軟禁状態にあり、施設を去ることができなくなっていた。現地のジャングルの奥にある宗教施設につく早々、探偵の友人のルポライターが教団の保安員に射殺されて、波乱の幕開けなのだが、調査員も不可解な死を遂げていく。

このミステリーでは探偵助手が半分辺りで犯人を名指しするのだが、その後に出てくる謎解きが名指しして犯人と関係なく、しかもここはまだ本書の半分辺りなので、「?」と感じだったのだが、この後次々と新たな謎解きがなされていく。しかも最後の最後まで、解かれる謎が次々と出てくるのだから、これは本とよくできたミステリーだと思う。最初はこのタイトルの意味がちょっと分からなかったのだが、最後の最後まで読むと、このタイトルもうまく考えられていると思えてくる。ただ、4番目の事件の解決だけは、どの説明もちょっと分かりにくく、「?」という感じがしている。

*1:filmarkのページが削除されたので、yahooのcacheのページにリンクを変えた