隠居日録

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2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

南海トラフ地震の真実

小沢慧一氏の南海トラフ地震の真実を読んだ。この本の内容はかなり衝撃的だ。中日新聞東京新聞に記事として書かれていたらしいのだが、全く見た記憶がない。忘れてしまったのかとも思ったのだが、自分のはてなブックマークを探しても、ブックマークしていないので、多分本当に見ていないのだろう。

東海地震とか南海トラフ地震はすぐにでも発生するような報道のされ方をしている。その発生確率の計算には「時間予測モデル」という方法を使っているのだが、なぜか南海トラフ地震の確率の計算にしか使っていないというのだ。南海トラフ地震は海溝型の地震で、海側のプレートが陸側のプレートを巻き込みながら沈み込むことによりひずみがたまり、ある限界点に達すると陸側のプレートが跳ね上がり、地震が発生する。この「時間予測モデル」では限界点は常に一定で、次の地震が起きるまでの時間と地震による隆起量は比例するとしている。実例として3つ上がっており、それらは高知県室津港、千葉県の南房総、鹿児島県の喜界島である。そして、室津港がちょうど南海トラフ地震の発生場所に含まれるので、そのデータをもとに確率を計算しているのだ。ただ、室津港のデータも宝永地震安政地震昭和南地震の3つだけで、果たしてそれらのデータだけでこのモデルが正しいという確信を与えるのに十分なのか、また静岡から南九州までの範囲である南海トラフ室津港だけで代表させていいのかという批判は当然ある。

時間予測モデルとは別に単純平均モデルというものもあり、これは過去に起きた地震の発生間隔の平均から確率を計算する方法で、政府の地震調査研究本部内の海溝型分科会でも南海トラフも単純平均モデルにしようという議論もあったようだが、単純平均モデルを使うと確率は20%程度になる。だが、防災という観点からは発生確率が下がるのはよろしくないという事で、未だに時間予測モデルを使い80%というような確率を出しているというのだ。

筆者らは過去古室津港の隆起データを調べ、実はそれは隆起データではなく、地震後に港が隆起して使えなくなったために掘り下げた後の港の深さだという事を突き止めた。つまり、室津港のデータは時間予測モデルには使えないという事だ。このことをこのモデルの提唱者の東京大学名誉教授の島崎邦彦氏にぶつけると、「室津港のデータにもし問題があるならば、そのデータをモデルの根拠から削除してしまえばよく、大きな問題ではない」という回答だった。とすると2地点のデータしかないことになるが、それらはどれぐらい正確なのだろうか?ちなみに、海外では時間予測モデルには否定的な論文も発表されているようだ。

更に米コロンビア大学の研究グループが1970年代周期説に基づき場所や規模、危険度などの詳細情報を盛り込んだ地震予測を発表した。この予測に記録された世界125カ所の地震について、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のヤン・カガンらが20年かけてその結果を検証した結果、大きな地震が集中して起きるとされた場所とそうでない場所において実際起きた地震の数に差がみられず、周期説による予測は「統計的に優位ではない」という結論を出した。

かつっての地震研究には地震の前兆現象を観測でとらえ、「X日後に地点Yで地震が発生する」という地震予知があった。しかし、地震との因果関係がある前兆現象は結局見つからず、地震予知はできないという結論になった。それにかわり、過去の地震の間隔より、その発生を予測する地震予測が現在行われている。これらの地震研究の問題は、地震の研究には防災という後ろ盾があるので、予算がつきやすいというのだ。何か地震の研究自体非常に胡散臭いもののように見えてきたし、研究者が山師のように感じられる。