隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

無間の鐘

高瀬乃一氏の無間の鐘を読んだ。遠州の観音寺には無限の鐘というものがあり、その鐘を撞くとこの世で富貴が得られるという。ただし、来世では無間地獄に堕ちる。この鐘は寺の僧により井戸に捨てられ、埋められたというが、なぜかこの鐘の小型の模型をもつ十三童子という旅の僧侶がいた。模型と言ってもその効力は本物で、どんな願いをかなえてくれる。しかし、来世では地獄に堕ち、しかも今生では子供が地獄のような責めを負うという。それでもつく者はいるのだった。この物語は十三童子に巡り合い、鐘を撞いたことにより起こる悲劇である。

本書は短編集で、「親孝行の鐘」、「嘘の鐘」、「黄泉平坂の鐘」、「慈悲の鐘」、「真実の鐘」、「無間の鐘」の6編が収録されている。それぞれの物語の最初に挿入されている物語が最初はよくわからなかったのだが、難破した船からどこかに避難している一行のようで、そこで無間の鐘のことやら、それぞれの短編での物語の触りが綴られている。実はこれは最後の物語にすべてつながっている。そして、それぞれの物語の登場人物も少しずつかかわりがあるようになっていて、全体として一つの長編小説の様に仕上がっている。

無間の鐘の伝承自体は実在のもののようだ。そこに十三童子という架空の人物を作り出して、全体の狂言回しの役も担わせつつ、人々を来世で無間地獄に堕とす恐ろしい役も与えている。といっても、すべて登場人物が鐘を撞いているわけではないのだが、撞かなくても悲劇的なことも起こっており、それは世の無常というものなのだろうか。鐘が人を地獄に堕とすという伝奇小説的な雰囲気もある時代小説だった。