隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

軍需物資から見た戦国合戦

盛本昌広氏の軍需物資から見た戦国合戦を読んだ。本書では軍需物資の中で主に木材という観点から戦国時代の合戦を研究した本である。あくまでも本書の主役は軍需物資なので、具体的な合戦の進行に関しては多くは語られていない。

木・竹は様々な用途で合戦に使われた。それは武器としてでもあり、砦を築く、渡河、燃料として用いられることもあり、その調達が合戦の成否を決めることにもなりかねないので、戦国大名は非常に気を使っていたようである。

戦国時代の主要な武器は槍であり、竹が用いられることが多かった。また、竹は指物の棹としても用いられており、参戦しているもののいずれかが槍か指物の棹のどちらかが必要なので、その数は膨大になったであろう。また、火縄は木綿か竹が用いられており、その比率は不明であるが、ここにも竹が用いられていた。また、竹は弓・鉄砲除けの盾にも竹・木が用いられている。竹等では鉄砲除けの盾としては弱いとも思われるが、鉄砲の弾としては鉛だけでなく土製もあったようである。

変わったところでは、草だ。草は通常は肥料や牛馬の飼料として用いられるたが、堀を埋めるためには埋め草(填草)を用いたということだ。

禿山という言葉があるが、どうやら本当は剥山と書くのが正しいようで、これは木が剥がれた状態の山を指している。また、山褪という言葉もあり、木が切り尽くされて、山の勢いが衰えた状態を指すようだ。また、そのような状態に至る途中の状況を山透と表現したようだ。これは木の伐採で山の空間が透いた状態だ。当然このような状態にならないように、山の管理を厳重にしており、不必要な伐採は禁止されていた。また、「はやし」も奨励されていた。はやしは「生やす」が語源のようで、はやしは植林・移植だけでなく、伐採の禁止も含む汎用的な言葉だったようだ。

エクソダス症候群

宮内悠介氏のエクソダス症候群を読んだ。

精神科医のカズキ・クローネンバーグは再び火星の地を踏むことになった。かっつては日本の大学病院に勤務していた。カズキの恋人はその大学の教授の娘であったが、突発性希死念慮のために縊死による自殺を選んだ。そのことで、大学教授との折り合いが悪くなり、大学にはいられなくなった。そして、カズキはかって亡き父が勤めていた火星の精神病院のゾネンシュタインに赴任することにしたのだった。

火星の開発は現在進行中であった。地球から運べる資源に限りがあり、また、火星のエネルギー・資源も乏しい。火星のテラフォーミングは擬似的なものであった。区画ごとに透明の薄い膜で覆い、その内面に大気を満たす方法で進め垂れていた。そして、医療の水準、事に精神医療の分野においては、絶対的に薬が不足しており、地球と比べると前近代的な医療レベルとなっていた。

精神病院ゾネンシュタインは改正で唯一の精神病院で、10棟の建物から構成されている。2棟の閉鎖病棟、1棟の特殊病棟、1棟の開放病棟があり、その他は検査・物資管理、寮・管理棟に割り当てられている。カズキはそこに赴任してすぐに第七病棟開放病棟の病棟長に任命されるのだった。そして、火星に蔓延するエクソダス症候群という精神疾患にカズキも罹患してしまうのだった。エクソダス症候群には脱出衝動を伴う妄想・幻覚、奇妙な夢、感情の平板化、思考の平板化、意欲の欠如症状が発生する。薬によって症状は緩和できるが、火星では薬は絶対的に不足している。カズキはそのような状況の中自分の出生にまつわる秘密に巻き込まれてく。

小説の道具立てに火星・精神医学が持ち込まれ、そこにエクソダス症候群や突発性希死念慮を設定している。一方で、火星が開発途上で、地球に比べるとかなり色々な面で遅れているので、未来なのか過去なのかよく判らない不思議な雰囲気を醸し出している。チャーリーという 第5棟(通称EL棟)の病棟長が狂言回しとなり、物語が進んでいき、なかなか面白かったのだが、最後の所でちょっとストーリーが急にしぼんでしまった印象を受けた。

それと、「火星では医師免許・看護師免許は必要ないという」設定はちょっと引っかかる所があった。