隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

修道女フィデルマの采配

ピーター・トレメインの修道女フィデルマの采配を読んだ。本書には「みずからの殺害を予告した占星術師」、「魚泥棒は誰か」、「養い親」、「「狼だ!」」、「法定相続人」の5編が収められている。

この中の「養い親」は珍しい「養育制度」というアイルランドの制度についてのミステリだ。当時のアイルランドでは要となる制度と書かれていて、子供は7歳になると預け先の家庭で育てられ教育を受け、その責任を引き受けたものが子供の養い親となった。子供は7歳になると養育に出され少女は14歳、少年は17歳に達したと見なされたときにその期間は終わった。養育制度により家と家のつながりは強固になり、養育によって生まれた関係は神聖なものとみなされ、養い子にとっては、血を分けた者たちよりもむしろ養い親との関係が深い場合も多かったと書かれている。この短編では、養い子として養育されていた少年が池でおぼれて死んでいたという事件で、フィデルマは相変わらずの鋭い洞察で謎を解くのだが、状況証拠しかないところが歯切れの悪い結末になっている。それと「「狼だ!」」の結末もなんだかやりきれないような感じがする。

修道女フィデルマの挑戦

ピーター・トレメインの修道女フィデルマの挑戦を読んだ。

本書は短編集で、「化粧ポウチ」、「痣」、「死者の囁き」、「バンシー」、「消えた鷲」、「昏い月 昇る夜」の6編が収められている。最初の「化粧ポウチ」ではフィデルマはまだ16歳ぐらいで、ちょうど法律を学ぶために学問所にやって来たという設定で、2編目の「痣」は20歳になり、学問所を卒業するために口頭試問に臨むという設定になっていて、こんな短編もあったのかと意外だった。特に「痣」はスタートレックのコバヤシマル試験の様に失敗して当然とういうような試験なのだが、冷静なフィデルマが難なく切り抜けていく様が心地よい。その他の作品でも、まだフィデルマは高位のアンルーになっていないようなので、若い頃のストリーという事だろう。「死者の囁き」では身元不明の死体からその身元を探り、犯人にまでたどり着くのは、相変わらずの洞察力だという感じがした。

アイルランドの歴史は全く知らないのだが、この中でキリスト教を新しい宗教と表現している。この小説の舞台となっている時代は7世紀なので、既に西ローマ帝国は崩壊している筈であり、それ以前にアイルランドにもローマ軍が進軍してきていたはずで、キリスト教も同時に入ってきたと思われるのだが、それでも「新しい宗教」と表現しているのは興味深かった。