隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

修道女フィデルマの叡智

ピーター・トレメインの修道女フィデルマの叡智を読んだ。この小説も以下のページで紹介されていたフィデルマシリーズの一編。
池澤春菜が薦める文庫この新刊!|好書好日
本書の主人公で探偵役のフィデルマは実にユニークな設定になっている。時代は7世紀頃のアイルランドフィデルマはタイトルからもわかる通り修道女なのだが、それだけではない。アイルランド5王国のひとつモアン国の王位継承予定者の妹であり、法廷弁護士(ドーリィー)でもある。しかも、場合によっては裁判官として判決を下すこともできる上位弁護士(アンルー)の資格ももっているのである。そして、当然ながら洞察力と推理力に優れている。本書には5編の短編が収められており、それらは「聖餐式の毒杯」、「ホロフェルネスの幕舎」、「旅籠の幽霊」、「大王の剣」、「大王廟の悲鳴」である。

本作の時代は7世紀であるので科学捜査による犯人追跡というような純粋なロジックによる推理を邪魔するものはなく、非常によくできた作品だと思う。フィデルマは色々な人から話を聞きながら、また、実際に事件の起きた現場を調べながら、推理を進める形式になっているのだが、作者の伏線は既にフィデルマが事件を知る前から張られているので、犯人捜しを楽しもうと思うのならば、ページの最初から気を付けて読むべきだろう。フィデルマは自分の推理が一定のレベルに達したら、関係者一同を集めて、事件を再現しながら推理を披露していく。「聖餐式の毒杯」、「ホロフェルネスの幕舎」、「大王の剣」では一旦最初に疑われていたものの疑いを拭い去ってしまい(それがフィデルマに求められていた依頼ではあるが)、「いったい誰が犯行を?」という状況に導いてから、再び推理を構築するさまは、読んでいて面白かった。

「旅籠の幽霊」は登場人物が少なすぎるので、なんとなく話の展開がみえてしまった。「大王廟の悲鳴」も「旅籠の幽霊」ほどではないが、ストーリーが安直な気がした。