隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

戦争とオカルティズム 現人神天皇と神憑り軍人

藤巻一保氏の戦争とオカルティズム 現人神天皇と神憑り軍人を読んだ。以前読んだ建国神話の社会史-虚偽と史実の境界 - 隠居日録と対になる内容で、こちらの本は建国神話を国に蔓延させ、押し付けた軍人に関して書かれている。建国神話などは普通の感覚ではありえないという事は自明だと思う。当然多くの軍人たちも建前は別として、そのような事は信じていなかったとこの本を読む前は思っていた。明治維新を実行した志士たちは、天皇を権力がない権威だけの地位に置き、天皇の威光を徹底的に利用することで、軍隊の統制と運用を図り(戦争中はその統制範囲は国民全体に及んだ)、権益の拡大を企図した。日本の軍隊組織は、天皇を「玉」として使用する統治者側と、彼らに利用される非統治者側の二重構造で成り立っていた。更に、統治される側は、天皇に帰依することで統治者側に都合がいい手駒になることを受け入れる者と、天皇と自分たちの間を塞ぐ壁である統治者を倒し、天皇と一体となることを求める革新派に分かれていた。後者が皇道派と呼ばれている。そして、最初の「玉」使いの代表が統制派と呼ばれている。皇道派・統制派という言葉は二・二六事件で出てくるが、今まで自分から深掘りして調べることはなかった。また、二・二六事件と同時にこの言葉が出てきてもあまり皇道派について詳しく触れている説明を見た記憶がなかった。

皇道派のこのような考え自体非常に危険な思想だと思うのだが、更に彼らには宗教的な影響があったというのだ。第一に影響を与えたのは神道で、これを奉じる軍人は天壌無窮の神勅や竹内文献(文書)に強烈な影響を受けた神国日本論や天皇による世界統治論を唱えた。もう一つが日蓮系で、天皇を本尊とする過激な法華神道や八紘一宇による道義的世界統一を唱え、多くの軍人を引き付けた。まさかここに竹内文書が出てくるとは思いもよらなかった。偽書の歴史を紐解くと必ず出てくる竹内文書が、戦前はこのような思想に利用されていたとは思いもよらなかった。

更に日本軍の中にはユダヤ陰謀論にのめり込む者がいた。著者の説明によるとユダヤ選民思想と神国の臣民である日本国民の特殊性が及ぼす選民思想が相容れないことによることが背景にあるらしい。また、一方でユダヤ陰謀論の対局を行く日猷同祖論などに過度にのめり込む軍人などもおり、一体戦前の日本の軍隊はどうなっていたのだろうと驚くばかりだ。本当に狂人の集団としか思えない。

昭和22年1月1日に昭和天皇がいわゆる「人間宣言」をするが、この詔書には実際にはタイトルがなくマスコミが「人間宣言」という通称を与えたようだ。この内容に関しては日本側とGHQ側と天皇がかかわっているが、GHQが提案してきた「天皇を以て神の裔なりとし」という表現に昭和天皇は不満を抱いたようで、「天皇を以て現御神とし」という表現になったという。これは人間宣言の説明として「過去の天皇に関してはわからないが自分は神ではなく人間である」という説明を聞いたことがあるが、それに対応しているのだろう。天皇は神の末裔であることの否定は受け入れられなかったという事だ。大元帥をして神憑り的な信仰を持っていたことになる。