隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

黄金比の縁

石田夏穂氏の黄金比の縁を読んだ。このタイトルの黄金比とは、顔にあるそれぞれのパーツの比率のことだ。縦方向には、髪の生え際-眉間-鼻先-顎が等間隔にあること。横方法にはこめかみ-目尻-目頭-目頭-目尻-こめかみが等間隔で並んでいること。この黄金比に当てはまる人を人事部の小野は採用することにしている。なぜなら、これは小野の考えだした会社へのささやかな復讐なのだ。小野が務めているKエンジニアリングは工場の設計を請け負う会社で、彼女は最初にプロセス部で尿素アンモニアプラントの設計に携わっていた。しかし、あるやらかしのために、彼女は人事部に左遷され、採用担当になった。その時に彼女は決めたのだ。この採用担当という仕事で会社に復讐しようと。

小野の不思議なロジックで黄金比に基づいて採用・不採用を判断しているのだが、実際数回の面接でどれほど人物の評価ができるかというのは本当に疑問だ。明らかにおかしい人間はわかるだろうが、それ以外の人間はある程度付き合ってみないとわからないだろう。ただ黄金比で決められるかどうかという疑問はあるが、これは彼女の経験則なので致し方ない。事実会社は小野の目論見通りの状況になっている。この小説は100ページちょっとしかなくて、中編と言ってもいいような長さだと思うのだが、最後はどうなったのかまでは書かれていない。彼女の願いが成就するところまでは必要ないが、この最初で最後の「縁」所までは書ききってほしかった。