隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

もゆる椿

天羽恵氏のもゆる椿を読んだ。時代は幕末、真木誠二郎は小身の旗本の次男坊で、婿の当てがあるわけではないので、世に出る目は全然なく、道場通いをする毎日だった。それがある日佐野兵衛という目付から声をかけられ、裏目付に取り立てられることになった。この裏目付自体は騙りではなく、表にできない密命を帯びた使命を実行する組織だった。だが、誠二郎は荒事に関しては滅法苦手で、血を見ただけで卒倒するような男だった。自分に斬った張ったの荒事はできるだろうかといぶかしみながらも、佐野の誘いに乗り、京都にいる幕府に仇なす敵を討つために上ることとなった。しかし、実際に剣をふるうのは「里の者」であり、誠二郎の任務は里の者を無事に京都に送り届けることだった。ちょっと安心した誠二郎だったが、里の者を外に出すのは鬼を野に放つと同じ事だと佐野に言われ、別な心配事を抱えることになった。

この小説は幕末を舞台にした時代小説的な設定だけれど、時代小説というよりは完全に今風のエンタメ小説だと思う。どんな鬼がやってくるのかといぶかしみながら、待ち合わせの品川の宿に辿り着くと、やって来たのは12歳の少女で、この娘はやたらめったらよく食べる。しかし、里の者なので誠二郎よりもよっぽど真剣による実戦に慣れていて、道中誠二郎の方が稽古をつけてもらうことにもなる。ストリーは後半までは至ってシンプルに進んでいくが、最後の方に色々種明かしが仕掛けられている。ストーリーの終わり方も、ライトなエンタメ小説といった感じが強く感じられた。