桜庭一樹氏の名探偵の有害性を読んだ。タイトルが面白いと思ったのだが、内容がシリアス目なのか、ユーモア的なのかわからずに読み始めた。テイストとしては後者であろう。
今から30年ぐらい前から約10年ぐらいの間、名探偵の黄金時代が日本にあった。難事件を次々と解決し、世間の脚光を浴びる名探偵の時代が。しかし、名探偵の時代も終わりを迎え、20年経った今の時代に、Youtubeの人気チャネルで「名探偵の有害性を告発する」という予告が流れ、名指しされたのが名探偵四天王の一人五孤焚風だった。20年ぶりに再会した名探偵の五孤焚風と探偵助手の鳴宮夕暮は謎の告発者をつきとめるため過去の事件を再検証する旅に出た。
ネタバレになるからあまり詳しくは書きにくいが、名探偵が扱った事件なので、かなり複雑な事件だろうと思いきや、実はそうでもなかったりする。しかも、名探偵と言われている人たちは芸能事務所に属していて、半分タレント的にテレビ番組に出演して謎を解いていた。私はシリアス目の展開を期待していたので、ちょっとこのストーリーはどうかと思いつつ読み進めた。この小説の主人公も明らかに探偵助手の鳴宮夕暮で、探偵の五孤焚ではない。五孤焚自身は若干エキセントリックなので主人公にしにくい感じはあるが。ただ鳴宮は芸能事務所の意向で探偵助手になったようで、五孤焚は「二人で謎を解いてきた」と言っているし、単なる探偵助手ではなかった。実際鳴宮は鋭いところもある。
6章まではつまらなくはないんだけれども、特に面白くもなくという展開だった。というのも基本的には数十年ぶりに事件が起きたところに赴き、事件関係者に会うという展開で、どちらかというと単調だった。しかも二人はもう50代で、溌剌さに欠ける。だが7章は違った。最後まであきらめずに読んできてよかったと思いながら、本を閉じた。この物語は輝きを失いつつあった鳴宮の再生物語に着地した。