隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

『七人の侍』ロケ地の謎を探る

高田雅彦氏の『七人の侍』ロケ地の謎を探るを読んだ。

2020年は黒澤明生誕110年、三船敏郎生誕100年の年なのだという。その割には世間的には関連するイベントは特に行われていないような気がするのだが、私が気づいていないだけなのだろうか。私が気づいたのは、11月8日にNHK BS1で「黒澤明映画はこう作られた~証言秘蔵資料からよみがえる制作現場」というのが放送されていたり、BSの有料チャネルで黒澤映画を放送していたりぐらいだろうか。私は黒澤映画は好きだが、マニアとか研究者という類ではないので、知らないことが多くあり、この本もなるほどと思いながら読むところが多かった。

今まであまり気にしていなかったというか、気づいていなかった点の第一は、この作品の配給収益だ。この本には配給収益は2億9千万円と書かれており、製作費は2億1千万円なので、興行的には赤字になっていなかったということだ。なんとなくずーと、この作品は公開時点では製作費は回収できていないのではないかと勝手に思っていたので、これは意外だった。しかも、この後海外に売ったり、テレビで放送されたり、ヴィデオになったりしているのだから、東宝としては十分すぎるほどの収益があったのだろうと思う。この映画は紛れもなく日本映画の金字塔だ。

さて、本書の本題に戻ると、七人の侍のロケ地だ。これは今まで、製作スタッフの証言等により、おおざっぱに場所は分かっているようなのだが、具体的にどの地点でということが明らかになっていなかったようだ。それで著者は「ロケ地の謎」と副題をつけているのだ。そして、今回の調査で具体的にピンポイントでロケ地が分かった個所が何か所も出てくる。それは本書を読んで確かめるのが一番だと思う。著者らは撮影当時の昭和29年近辺の地図や航空写真を基に地形を割り出し、実際に現地にも訪ね特定していっている。この作業の中でなるほどと思ったのは、カシミール3Dを使って、稜線を再現して、映画のシーンやロケ風景の写真の山の形と比べて場所や、撮影方向を特定している所だ。道路や町並みは60年以上もたてば随分変わってしまうだろうが、山の形は早々変わらない。この手法は意外であるが、なるほどと思った。

それと、監督や俳優陣も鬼籍に入り、生き残っているスタッフの数も少なく、更に製作時から時代が立ちすぎて記憶があいまいになっているのが実情だ。だが、現地を訪れて取材すると、実際に現地で撮影にかかわった地元の人たちに巡り合えるという幸運があり、色々な情報が掘り起こされていて興味深かった。それにしても昭和29年代には世田谷に広大な土地があり、そこにあの村のロケセットが作られていたというのは今となっては考えられない。