隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

宙ごはん

町田そのこ氏の宙ごはんを読んだ。本作品は北上ラジオの第45回で紹介されていた。

家族の正しいかたちを求めて格闘する『宙ごはん』町田そのこ(小学館)を手に取るべし【北上ラジオ#45】 - YouTube

主人公はタイトルにあるそらちゃんという女の子で、この子とちょっと訳ありのその母親との物語だと思って読み始めたら、後半に行くにつれて色んな事が明らかになり、母と娘の物語という枠には収まらないような展開を見せた。宙は「私にはお母さんとママと両方いる」というような子で、それは母は産んでくれた人で、ママは育ててくれている人だと思っていたからだ。実際に彼女は母親の妹である叔母の風海に育てられていて、母である花野はたまに会うきれいな女の人だと思っていた。しかし、叔母の一家がシンガポールに転勤で赴任することになり、宙は母と暮らし始めるのだった。母親の花野はイラスト家として生計を立ててはいるが、生活力がなく食事もまともに作れない。それで、中学の時の後輩で実家が洋食屋を経営している佐伯恭弘に食事の準備を頼むことにした。また、この出だしの所では宙の父親のことは全然触れられていない。

こんな感じで始まる本書は連作もので、5編収められていて、宙が小学校に入ったころから高校生ぐらいの時期を断続的に描いている。それぞれの短編に食べ物にちなんだタイトルがついているのだが、それとはかかわりがなくこの一家・一族の過去が掘り起こされていって、なぜ花野や風海がこうなったのかが暴かれる。そこに至って、単に宙と花野母娘の物語とい枠を超えているし、、最後の短編では更にもう一つ別なところに広がってしまう。この「宙ごはん」というタイトルからこのようなストーリになるとは読む前は思いもつかなかった。ネタバレになるので最後の詳細は書かないが、実際そういう立場になった人はどうしたらいいのだろうと思う。答えの出ない問題だ。