隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

地図と拳

小川哲氏の地図と拳を読んだ。この小説を一言で言い表すのは難しい。ゲームの王国のように途中から時間が未来に進むのかと思ったのだが、時間軸は常に過去にあり、20世紀の前半を仙桃城という満州にあったとする架空の都市を中心に、中国と日本とソビエトの歴史を描いた小説だ。長いので登場人物も多数登場し、一応物語らしいものはあるが、結局はタイトルにある通り地図と拳の物語なのだと思う。地図は国家を目に見える形にした象徴であり、拳は当然武力を意味する。満州を舞台に日本、中国、ソビエトがその地を得ようと武力を衝突させたことが物語の底流にあるのだと思う。そして、なぜ日本が泥沼の日中戦争に突き進んでいって(中国が日本を引き込んだともいえるだろう)、戦線を拡大させざるを得なかったかが書かれている。物語はあるのだから小説と呼んで間違いないと思うのだが、著者は単にあの時代の満州を書きたかっただけではないのだと思った。