隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

金環日蝕

阿部暁子氏の金環日蝕を読んだ。森川春風は帰宅しようとしていた時に、近所に住んでいる小佐田サヨ子がひったくりに会っていたところに出くわし、とっさにその犯人を追いかけた。たまたまその場に居合わせた男子高校生と犯人を挟み撃ちにしたのだが、運悪く犯人には逃げられてしまった。しかし、犯人の男がカメラフィルムのケースを再利用したアクセサリーを落としていった。実はそれは春風の大学の友達が所属している写真部が作って、展示会で頒布したもので、春風はそのツテを辿って犯人を突き止めようと行動を起こす。それに事件現場に居合わせた男子高校生の北原錬も加わり、2日間だけの探偵コンビが誕生した。

こんな感じで始まるミステリーなのだが、単にミステリーと呼んでいいのかどうかわからない。この小説は実によくできたストーリ展開になっている。ひったくりの犯人は割と早く判明するが、被害者の小佐田サヨ子は警察に届けるつもりはないというので、どのようにストーリーが展開するかと思っていると、ひったくりとは別に大きな犯罪が行われていることが明らかになり、そして第三章の「発覚」で更に色々なことが明らかにされて、「なるほどそういう事だったのか」と驚かされる展開になった。森川春風は正義感が強く正にヒロインという立ち位置で、物語を引っ張っていく役割だが、北原錬の方が人物造形も多面的で、実は主人公ではないのかと思わせるストーリーになっていた。