隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

Slowdown 減速する素晴らしき世界

ダニー・ドーリングのSlowdown 減速する素晴らしき世界 (原題 Slowdown The End of the Great Acceleration - and Why It's Good for the Planet, the Economy and Our Live)を読んだ。本書は色々なデータを例示しながら、いかに我々を取り巻く色々な物事が減速しているのかを示している。ある量が昨年より今年の方が多ければ加速している事であり、少なければ減速しているという事だ。要するに対前年比が1より大きいのか1より小さいのかだ。悲観する必要がないのはまだ量がゼロになっているわけではないし、物理的な量はマイナスにもならない。

経済成長という呪い - 隠居日録に人口減のことが書かれていた*1が、本書には人口*2は当然として、債務、データ量、出版、経済と様々な指標を引用して減速を解説している。今のとこ有効な手を打たなければ減速しそうにないのは平均気温ぐらいのものだろう。色々なデータを調べて、グラフ化(本書のグラフは特徴的で、横軸を変化率、縦軸を量として、各年度の値をつないで書くというもので、本書で初めて見た)していて、労作であるのは確かだが、内容に不満もある。

英語のタイトルにある"good"、そして日本語のタイトルにある「素晴らしき」が十分に説明されていないのだ。著者はイギリスの富裕層の富も減速しているので、いずれ格差のない世界がやってくるだろう的な説明しかしていないし、これに関してはグラフはないのでどのように変化しているのかもわからない。また、仮に富裕層の富が今後減っていって、格差がなくなるような状況になるのに何百年かかるのだろう?あと、「スローダウンが進むという事は、凶暴な資本主義が終わることを意味する」とも述べている。確かにそうなのかもしれないが、「大きな経済格差は持続しなくなるだろう」と特に説明もなく断言している。これも今一つ理由が不明でよくわからない。

データで減速していることを示しているのは理解できるが、それがどうして素晴らしき世界につながるのか今一つよくわからなかったし、説明が尽くされているとは思えない。

*1:合計特殊出生率が2050年には2.1を割り込むという予想

*2:本書でも合計特殊出生率は同様の予想をしているように見える(P264)が、人口自体は2100年以降も増加しているのは寿命の影響なのだろうか?