隠居日録

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2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

ソ連を崩壊させた男、エリツィン 帝国崩壊からロシア再生への激動史

下斗米伸夫氏のソ連を崩壊させた男、エリツィン 帝国崩壊からロシア再生への激動史を読んだ。昨年あたりからロシア発のニュースにたびたびする登場オリガルヒ(本書の中ではオリガルフと表記されている)は新興財閥と説明されることが多いが、いったい彼らはどこからやって来たのか、どのようにして財閥と呼ばれるようになったのか不思議に思っていた。本書はオリガルヒについて書かれている本ではないが、オリガルヒは共産主義国が崩壊する中で生まれてきたのだから、いくばくかは書かれているのではないだろうかと本書を読んでみた。

読後の率直な印象は、何もかにもソ連に関しては結局よくわからないというものだった。本書のカバーしている歴史的なタイムスケールはゴルバチョフ登場からプーチン政権までなのだが、タイトルにある通り、そのほとんどでエリツィンの時代が解説されている。この本を読んでも、ロシア大統領となったエリツィンは何のためになったかよくわからなかった。首相をころころと変えてなんとか政権を維持していたという事がかろうじて分かっただけだ。世論の支持率が数パーセントしかないこともざらで、それにしてもロシアでエリツィンがこんなにも不人気だったのかと驚く。

本書によると、オリガルフとは古代ギリシャの政治用語で、寡頭支配を意味している。しかし、本書で指摘されているがその実態は政商と言ったほうがわかりやすいと思う。「新興財閥」という表現はあまりにもオブラートに包み過ぎていて、実態が見えない。ロシアのオリガルフの始まりは1995年の金融危機の時で、首相のチェルノムィルジンをウラジミール・ポターニン、ホドルコフスキー、アレクサンドル・スモレンスキーの3人の金融資本代表が訪れ、「担保債権オークション」という方式で政府に18億ドルを融資したことだった。政府に融資する代わりに、優良な国家所有企業の株式を担保に取ったのだ。ポターニンは外国貿易省の幹部の息子で、オネクシム銀行を作った人物だ。ホドルコフスキーはモスクワのコムソモール(旧ソ連の青年組織)の金融部門出身でメナテプ銀行を率いていた。スモレンスキーはソ連期に「第二経済」であるいわゆる闇市で聖書のような稀覯本を捌いて財を成したようだ。この時の担保の株式がどうなったのか本書に明らかにされていないが、ロシア政府は借金を踏み倒したのだろうか?

ポターニンやホドルコフスキーがどうやって銀行を牛耳ることができるようななったか、どこから資金を得たのかが書かれていないので、今一つ消化不良の感が否めないが、共産党幹部による不正蓄財が資金の原資なのだろうか?本書の中ではオリガルフの集団を4つに分けた米国のロシア専門家トーマス・グラハムの説明を引用している。

  1. ガスプロムやルクオイルなどの旧共産党系エネルギー企業管理者が所有者になったもの。
  2. モスクワ市長ルシコフ周辺の集団。
  3. 金属、アルミ、軍需産業、安全保障関係者。
  4. マクロ経済と民営化、情報通信に基礎を置く集団。彼らは96年のエリツィン大統領選挙で協力した。

ロシア人にアンケートをとると、ソビエト時代の方がよかったというような回答が多数を占めるというような結果出てきて、ちょっとピンとこなかったとのだが、少なくともソビエト時代は生活に困窮していなかったというのがその背景にあるようだ。あまりにもエリツィン時代の経済の混乱が酷かったという事なのだろう。