隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

此の世の果ての殺人

荒木あかね氏の此の世の果ての殺人を読んだ。本書は第68回江戸川乱歩賞受賞作品だ。物語はハルちゃんとイサガワ先生が自動車の路上教習に出かけるところから始まるのだが、読んでいて何となく様子が変に感じた。何か違和感を覚えるのだ。それもそのはずで、この物語は地球に小惑星が衝突することが確定している2022年年末が舞台になっている特殊設定ミステリーだ。驚いたことに、巻末の選評を読むと、今回の江戸川乱歩賞の最終候補に残った5編のうち4編までが特殊設定のミステリーのようで、今や特殊設定ミステリー自体が特別ではなくなってきているのかとびっくりした。

この物語は小惑星の衝突場所が日本の熊本の阿蘇辺りだと確定してから4カ月ぐらいたった頃の時間設定になっており、衝突までの残り時間はあと3カ月ぐらいになり、国外に逃げても助かるかどうかは分からないが、国外に逃げる者は逃げ、自死を選んだ者は自殺して、社会基盤は崩壊した様な状況になっている。そのような状況で、「なぜ自動車学校に通うのか」という疑問はあるが、主人公のハルにはそれなりの理由がある。だが、自動車学校に逃げ残った教官がいるのはちょっと不思議な気もした。教習用の車のトランクから女性の死体が発見された辺りから、ミステリーは動き出し、このような状況でなぜ殺人を犯し、死体を隠したのかという大きな謎を二人が追いかけていくストーリーになっている。

イサガワ先生の異常に突き抜けた正義感はちょっと怖いものではあったが、このハルちゃんとイサガワ先生コンビは面白かった。ただ、社会基盤が崩壊して、電気とカ水道が止まっているのに、携帯電話がかろうじて使える辺りがちょっとどうなのだろうと思った。でも最大の問題は、この特殊な状況でなぜ殺人を犯すのかという謎のところがどう評価されるかだろうなぁと思って読み進めた。設定がぶっ飛んでるので、殺人の理由・動機もぶっ飛んでるというと感じたのが読後の率直な感想だ。巻末の選評を読んでも、特に誰もこの辺りのことを指摘していなかった。選考委員には特に問題ないという事なのか。