隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

空想の海

深緑野分氏の空想の海を読んだ。本書は短編集である。巻末の初出一覧を見ると、2013年から2022年までの作品が収録されていて、多分今まで本に収録されなかった短編を集めたのではないかと想像している。というのも、収録されている作品に統一したテーマやジャンルはあまり感じなかったからだ。ミステリ調の作品、SF的な作品、ファンタジー、「この本を盗む者は」のスピンオフ的な作品や前日譚などなど色々収録されている。

収録作品は「海」、「髪を編む」、「空へ昇る」、「耳に残るのは」、「贈り物」、「プール」、「御倉館に収蔵された12のマイクロノベル」、「イースター・エッグに惑う春」、「カドクラさん」、「本泥棒を呪う者は」、「緑の子どもたち」。

印象に残ったのは日常のミステリーの「イースター・エッグに惑う春」。「プール」も日常のミステリかと思ったら、そうじゃない落ちだった。「本泥棒を呪う者は」を読んで、そういえばなぜあんな呪がかかっていたのかは「この本を盗む者は」では出てこなかったのを思い出した。この短編は正に「この本を盗む者は」の前日譚で、なぜ呪いがかかっていたのかの種明かしになっている。本を盗まれて御倉たまきが怒っていたのは既知のことだが、そこから呪いにいたる物語がえがかれている。