デイヴィッド・A・トレイルのシュリーマン―黄金と偽りのトロイ(原題 SCHLIEMANN of TROY: Treasure and Deceit)を読んだ。図書室のバシラドール - 隠居日録で知ったシュリーマンに関する本で、知らなかったとはいえ、結構驚きの内容だ。
本書は大著だ。上下2段組で430ページ余りもあり、シュリーマンの生い立ちから、商人時代のこと、遺跡調査・発掘から死に至る経緯まで詳細にわたって記されている。しかも、シュリーマンの日記、手記、手紙、遺跡発掘の調査報告書を多角的に分析して、多くの引用を行っている。この本を読んでいると、最初の方にシュリーマンを評して「虚言癖がある」と述べていて、辛口の評価だなと思ったのだが、本書を読み進めていくうちに、なるほどと思えてきた。当時の新聞、日記、手記、手紙、調査報告書を突き合わせると、書かれていることに矛盾が多々あるのだ。しかも、自身の日記にさえも平気で嘘を書く始末で、死後日記が誰かに読まれることを予見して、体裁を整えるために嘘を書いたのか、それとも稀代の虚言家で、後先も考えず嘘を書いたのか判断がつかなかった。
本書の読んでいて結局わからなかったのは、なぜシュリーマンはこんなに嘘をついたのかということと、なぜトロイ発掘に情熱を傾けたのかだ。商人として成功してから、子供のころの夢を実現するために、遺跡の発掘を始めたというのは、シュリーマンの全くの創作であることは本書で明らかにされている。彼はロシアで商人として成功し、そこで結婚して子供を儲けていたが、結婚生活は破綻して、そのためなのかロシアを離れて生活をはじめ、ロシアに戻る気はなかったようだ。離婚するために、アメリカでの居住事実がないのに不正にアメリカの市民権を手にし、ロシア人妻に離婚裁判のことを告げずに離婚した。その後ギリシャ人女性と結婚したが、ロシアでは正式に離婚できていなかったようで、ロシアに戻れば重婚として裁かれる身であったようだ。では、なぜ遺跡の発掘など始めたのかが結局わからなかった。本書を読む限り、シュリーマンは発掘にかかわる費用を自分で負担しているようなのだ。だが、その一方で発掘した遺物を勝手に国外に持ち出しているのも事実のようだが、その遺物を売買して利益を得ていたわけではないようだ。また、発掘物に別に買い求めたものを混ぜて、発掘成果の水増しをしているらしいことも本書に書かれていてたり、発掘場所を変えたりしているので、シュリーマンの調査報告書をそのまま信用できないことも書かれている。
シュリーマン自身は無駄に金を使うことは罪悪だと思っていたようだが、親戚や別れた妻や子にも仕送りをしており、気前が良い一面も持っていたようだ。