隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

七十五羽の烏

都筑道夫氏の七十五羽の烏を読んだ。この本は既に数回読んでおり、今回久しぶりに読んだ。

ものぐさ太郎の子孫を自称する働くことが大っ嫌いな物部太郎が、父親からの働けというプレッシャーをかわすために、何でも屋の片岡直二郎に依頼して開設したゴースト・ハンター(心霊探偵)事務所に依頼が舞い込んできた。依頼人若い女性で、「伯父が幽霊に殺される」という。そして、その伯父が実際に殺されてしまった。

本書が書かれたのは1972年で44年も前で、流石に時代背景は古い所があるが、内容自体には古臭さはない。都筑氏は当時「トリックよりロジックを」ということを提唱しており、本書もそのスローガンに基づいて書かれた作品である。本書では、一見奇妙に思えることも論理的に説明されている。

物語の最後で物部太郎は、

推理ってのは、ある解釈があてはまることを、証明するだけじゃないんだ。ほかの解釈はあてはまらないことも、証明しなければならない

と言っている。当たり前と言えば当たり前なのだが、ミステリーにおいては重要なことだと改めて思った。それと、今回再び読み返してみて気づいたのだが、片岡直二郎が会話や電話を片っ端から録音していることだ。何せ物部太郎は働きたくないので、当然捜査活動にも身が入っていない。最後の最後で、現場から逃げ出すために推理し始めるわけだが、このテープがなければ、何が起きていたかは辿れなかっただろう。