隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

キリオン・スレイの生活と推理

都筑道夫氏のキリオン・スレイの生活と推理を読んだ。手元にあるのは昭和53年第三版発行の文庫本で、42年前の本になる。amazonで検索してみても、再版されていないようで、絶版のようだ。実はこの本は最初に買った都筑氏の本だ。都筑氏の事は多分以前から知っていたはずで、それで手に取ってみたのだと記憶しているのだが、中身を見て洒落ているなと思って買ったのだ。

目次

目次はこのようになっていて、文字が書かれていないのだ。そして、実際の各短編の最初はこのようになっている。なぜこのような趣向になっているかというと、このミステリーの探偵役はアメリカからやってきたキリオン・スレイという名の詩人で、キリオンはQuillionと綴り、剣の欛を意味する語なのだ。

最初の?
それと、通常なら「1」、「2」と書かれている各章の頭のところが、このように「?」を配置して、凝ったデザインになっている。
小見出し
それまで私は横溝正史とか江戸川乱歩とかをよく読んでいて、そこで書かれていたものとは全く違うミステリーということに次に興味を覚えた。横溝正史とか江戸川乱歩も何かおどろおどろしい世界を描いており、しかも過去の因縁が現在に降りかかってきて犯罪が起きるというようなストーリーが多いが、都筑氏の書くミステリーは全く違う。これは著者自身が言う「トリックよりロジック」ということが色濃く表れている部分だ。

「最初の? なぜ自殺に見せかけられる犯罪を他殺にしたのか」、「第二の? なぜ悪魔のいない日本で黒弥撒を行うのか」、「第三の? なぜ完璧のアリバイを容疑者はひていしたのか」、「第四の? なぜ殺人現場が死体もろとも消失したのか」、「第五の? なぜ密室から凶器だけがきえたのか」、「最後の? なぜ幽霊は朝めしを食ったのか」の6編が収められている。この中で2話目の「黒弥撒」があまり結論めいたことを書かずにぼやかしているので、タイトルの問いには答えていないが、これらのタイトルのように不思議な状況が発生し、いったい何があったのか・起きたのかというのを論理的に解いていくのが「トリックよりロジック」のミステリーだ。だから派手な仕掛け(トリック)はないが、それぞれの短編はなるほどと思えるようなストーリーになっている。