隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

2020-01-01から1年間の記事一覧

恋と禁忌の述語論理

井上真偽氏の恋と禁忌の述語論理を読んだ。本書は連作短編で、「スターアニスと命題論理」、「クロスノットと述語論理」、「トリプレッツと様相論理」の三つのミステリーと「恋と禁忌の……?」のおまけの4編が収録されている。本書はミステリーなのだが、そ…

嘘と正典

小川哲氏の嘘と正典を読んだ。本書は短編集で、「魔術師」、「ひとすじの光」、「時の扉」、「ムジカ・ムンダーナ」、「最後の不良」、「嘘と正典」の6編が収められている。巻末の初出一覧を見ると、最初の4編がSFマガジンで、「最後の不良」がPen、「嘘と正…

匣の中の失楽

竹本健治氏の匣の中の失楽を読んだ。この本を読むのは2回目で、最初に読んだ時からは多分25年以上は経過していると思う。なので、細部に関してはあまり覚えていなかったし、この本の仕掛けについても、間違って記憶していた。主要な登場人物は12人で、彼らは…

流れよわが涙、と孔明は言った

三方行成氏の流れよわが涙、と孔明は言ったを読んだ。本書はSF短編集で表題作の「流れよわが涙、と孔明は言った」、「折り紙食堂」、「走れメデス」、「闇」、「竜とダイアモンド」の5編が収められている。表題作は明らかにディックの「流れよ我が涙と、警官…

なめらかな世界と、その敵

伴名練氏のなめらかな世界と、その敵を読んだ。本書はSF短編集で、「なめらかな世界と、その敵」、「ゼロ年代の臨界点」、「美亜羽へ贈る拳銃」、「ホーリーアイアンメイデン」、「シンギュラリティ・ソヴィエト」、「ひかりより速く、ゆるやかに」の6編が収…

不連続殺人事件

坂口安吾の不連続殺人事件を読んだ。実際には創元推理文庫の日本探偵小説全集の坂口安吾集に収録されている作品を読んだ。この本をいつ購入したのかは正確に覚えていないが、多分30年ぐらい前ではないだろうか。買った当時も不連続殺人事件を読もうとしたの…

生命進化の物理法則

チャールズ・コケルの生命進化の物理法則(原題 The Equations of Life. The Hidden Rules Shaping Evolution)を読んだ。以前、生命の歴史は繰り返すのか?ー進化の偶然と必然のナゾに実験で挑むを読んだが、その本と対になるような本で、なぜ進化の収斂が起き…

時空旅行者の砂時計

方丈貴恵氏の時空旅行者の砂時計を読んだ。本作は第29回鮎川哲也賞を受賞した作品で、SF+ミステリーの構成をとっている。SFのところは主人公で探偵役となる加茂冬馬が不思議な声にいざなわれて過去の世界にタイムスリップするところなのだが、実はミステリー…

5分間SF

草上仁氏の5分間SFを読んだ。たぶん1980年代後半から1990年代の前半ぐらいには草上仁氏の作品をよく読んでいた気がする。軽いタッチのSF短編を量産していて、SFマガジンにもよく掲載されていたと記憶しているし、文庫本も早川書房から多数出ていたと記憶して…

キリオン・スレイの生活と推理

都筑道夫氏のキリオン・スレイの生活と推理を読んだ。手元にあるのは昭和53年第三版発行の文庫本で、42年前の本になる。amazonで検索してみても、再版されていないようで、絶版のようだ。実はこの本は最初に買った都筑氏の本だ。都筑氏の事は多分以前から知…

イブリン嬢は7回殺される

スチュアート・タートンのイヴリン嬢は七回殺される(原題 The Seven Deaths of Evelyn Hardcastle)を読んだ。気づいた時には「アナ」と叫んでいた。そこは森の中で、しとしとと雨が降っていた。自分が誰かもわからない。名前は?ここはどこだ?どこからここ…

「忠臣蔵」の決算書

山本博文先生の「忠臣蔵」の決算書を読んだ。本書では大石内蔵助が遺した「預置あずかりおき候そうろう金銀きんぎん請払帳うけはらいちょう」を基に元禄赤穂事件を考察している。この史料は討ち入りのために費やされた経費の入出金記録で、神奈川県箱根町に…

勝者なき戦争 世界戦争の200年

イアン・J・ビッカートンの勝者なき戦争 世界戦争の200年 (原題 The Illusion of Victory: The True Cost of War)を読んだ。本書の内容をを一言で表すならば、戦争による犠牲には、どのような観点から見ても、払うのに見合った価値を見出すことはできないと…

マネーの魔術史 支配者はなぜ「金融緩和」に魅せられるのか

野口悠紀雄氏のマネーの魔術史 支配者はなぜ「金融緩和」に魅せられるのかを読んだ。この本は貨幣の歴史についての本で、サブタイトルにあるように、いかにして支配者がその価値を水増ししたのかということの説明だ。金融緩和とは貨幣の量を増やすことを意味…

狐火の辻

竹本健治氏の狐火の辻を読んだ。湯河原のあたりで噂されている不思議な話・都市伝説の裏には実際に事件があったという感じのミステリーだ。最初の「序としての断章」にそれらの話が語られている。一つは森の奥の沼のそばに隠れ家があり、そこには黒いマント…

脳はあり合わせの材料から生まれた

ゲアリー マーカスの脳はあり合わせの材料から生まれた(原題 KLUGE The Haphazard Construction of the Human Mind)を読んだ。この本を読む前は、タイトルから、脳の進化に関して書かれているのだと思っていたのだが、実際は脳の進化の心理学側面(即ち進化心…

気候で読み解く日本の歴史―異常気象との攻防1400年 (2)「江戸時代」

田家康氏の気候で読み解く日本の歴史―異常気象との攻防1400年の後半。前半はこちら。 江戸時代 寛永の飢饉 寛永十三(1636)年から旱魃による凶作の記録が出てくる。寛永十五(1638)年から寛永十八(1641)年にかけて、畿内から西日本にかけて家畜牛の大量死が記…

気候で読み解く日本の歴史―異常気象との攻防1400年 (1)「奈良時代から室町時代まで」

田家康氏の気候で読み解く日本の歴史―異常気象との攻防1400年を読んだ。長くなったので2分割とした。後編はこちら。本書を読むと日本では本当に昔から天候不順を契機に飢饉が発生し、多くの人々の命が奪われてきたことに驚く。それから比べると、農業技術の…

魔法使いと最後の事件

東川篤哉氏の魔法使いと最後の事件を読んだ。さらば愛しき魔法使いの最後で雑誌に魔法を使っているところをスクープされてしまい、魔法使いマリィが突然いなくなってしまったので、このシリーズは終わりなのだろうなぁと漠然と思っていたら、続巻が出た。人…

so-netのCHAN-TORUはGASからのアクセスを許さない

so-netのスマホ向けテレビ番組表「CHAN-TORU」がJSON形式でデータを渡してくれるのに気が付いた。それでGASで取得すれば何か面白そうなことができそうだと思って、試しにコードを書いてみた。SONYはレコーダーを作っているからグループ内でこのようなサイト…

ライ麦畑でつかまえて

J.D.サリンジャーのライ麦畑でつかまえて(原題 Catcher in the Rye)を読んだ。色々なところで言及されたり、引用されたり、参照されたりするサリンジャーのライ麦畑でつかまえてだが、今まで読んだことがなかったので、どんなものなのだろうと思い読んでみた…

公卿会議―論戦する宮廷貴族たち

美川圭氏の公卿会議―論戦する宮廷貴族たちを読んだ。藤原道長の日常生活で倉本先生が書かれていた平安貴族に対する現代人のイメージはどうやら50年前に土田直志鎮という歴史学の先生の言葉がオリジナルのようだ。摂関政治期には、重大な問題があれば、陣定と…

いけない

道尾秀介氏のいけないを読んだ。本書は蝦蟇倉市を舞台にした連作短編のミステリーだ。4編納められており、「弓投げの崖を見てはいけない」、「その話を聞かせてはいけない」、「絵の謎に気づいてはいけない」、「町の平和を信じてはいけない」がそれぞれのタ…

記憶術全史 ムネモシュネの饗宴

桑木野幸司氏の記憶術全史 ムネモシュネの饗宴を読んだ。数年前から物覚えが悪くなった。年齢による問題だとは思うのだが、なんとかならないかと思っている。実生活にさほど影響のあるものではないのだが、例えば、朝、洗面をしながら、家を出る前にアレをし…

素数の未解決問題がもうすぐ解けるかもしれない。

ヴィッキー・ニールの素数の未解決問題がもうすぐ解けるかもしれない。(原題 Closing the Gap The Quest to Understanding Prime Numbers)を読んだ。常々思うが素数というのは不思議だ。何が不思議だといって、そのように設計されたわけでもないのに、調べて…

さよならの儀式

宮部みゆき氏のさよならの儀式を読んだ。著者初のSF短編ということで、興味を持ったので、読んでみた。宮部みゆき氏というとやはりミステリー作家という印象がある。収録作品は8編。「母の法律」、「戦闘員」、「わたしとワタシ」、「さよならの儀式」、「星…

聖者のかけら

川添愛氏の聖者のかけらを読んだ。舞台は13世紀前半のイタリア。事の発端はモンテ=フォビオ修道院のマッシミリアーノ院長の許に聖ドミニコの聖遺物(遺骨)がもたらされたことだった。ドミニコ会のカルロなる修道士が5人の会士を伴い訪れ、聖ドミニコの聖遺物…

楽園の真下

荻原浩氏の楽園の真下を読んだ。本作は北上ラジオ第9回で紹介されていた。 本の雑誌 Presents 北上ラジオ 第9回 - YouTube藤間達海はフリーのライターで、目下「びっくりな動物図鑑」という本の執筆中だったのだが、何匹か目のドジョウのような企画で、筆が…

きまぐれ砂絵

都筑道夫氏のきまぐれ砂絵を読んだ。落語推理 迷宮亭を読んで、久しぶりになめくじ長屋捕り物さわぎシリーズを読みたくなったのだが、これを最初に読んだのは多分今から30年以上前なので、内容に関してはかなり記憶があいまいになっていた。自分の記憶では、…

書評稼業四十年

北上次郎氏の書評稼業四十年を読んだ。これは北上ラジオの特別編で紹介されていた。本の雑誌 Presents 北上ラジオ 特別編 - YouTube上のラジオでも言及されているし、本書のあとがきでも書かれているが、かって中間小説というカテゴリーがあった。私がその言…